明治HDと花王の挑戦、持続可能な原材料調達と付加価値・企業価値の向上は両立できるか?
■ 花王 自然資本への対応において、消費者の観点を考慮した分析、取り組みを実施 ■生態を理解・考慮することで最適なソリューション・製品につなげる 花王は、生活者向けの日用品を扱う事業と、産業界のニーズにきめ細かく対応した製品を扱う事業を展開する大手消費財メーカーです。 「サステナビリティ以外の退路を断ち、「未来のいのちを守る会社」として、人、社会、地球に貢献することをめざしていきます」と宣言していることから、経営においてサステナビリティの重要性が高いことが伺えます。自然資本の考え方も既に経営方針に含まれています。 例えば自社の貢献領域を「生命」「生活」「生態」と定め、この3領域を深く知ることが未解決課題への最適なソリューション・製品につながるとしています。また、花王の株主になるメリットの1つとして、自社への投資が環境・社会貢献に結び付くと説明しています。このことから、環境貢献がステークホルダーの共感を呼び、企業価値向上につながる考え方が伺えます。 ■消費者の動向を強く意識した、自然資本の分析 花王は2023年4月にいち早く、生物多様性と事業の関わりを分析しました。 花王の分析の特徴は、自然・経済・社会等のマクロ環境の将来シナリオを複数パターン作成し、シナリオごとに花王が属する業界・事業で想定される重要な変化を具体化した点です。 自然資本の分析のなかで、日用品における市場変化も考慮した点からは、消費者を重視する花王らしさが伺えます。さらに、事業戦略に反映しやすい形で整理されており、事業活動に自然資本を考慮していることが伺えます。 ■環境に配慮した植物原料を利用 実際に花王は、最も関わりの大きい自然資本であるパーム油に関し、森林破壊ゼロの調達をめざした「ハイリスクサプライチェーンからの調達」を策定しています。 この取り組みでは、花王グループで使用するパーム油について、2025年までにRSPO認証油(第三者保証)に100%切り替えを目指しています(花王HPより )。 さらに花王は、サプライチェーンの透明性を高めるため、サプライヤーから定期的に最新のトレーサビリティ情報を入手し、自社サプライチェーンにつながるミルリストを公開しています。2023年12月時点では、パーム搾油工場(パームミル)99%、パーム農園87%においてトレーサビリティを確保しています。 ■生活者参画型の資源循環の取り組みを推進 花王では、生活者を巻き込んだ資源循環の活動にNPO、ライオン、自治体等と協働して2016年から取り組んでいます。 この活動は、生活者と協力し、洗剤などの使用済のつめかえパックを回収、再生樹脂に加工、ベンチなどを作成、リサイクル材を使用したつめかえパックを限定発売するなど、市民生活に役立つものへと還元するものです。生活者と共に資源循環に取り組むことは、花王の魅力向上にもつながると捉えられます。
野村総合研究所