シリーズ・総裁選~新政権 (2)石破流「べき論」外交の当否
鈴木 美勝
自民党の石破茂新総裁は10月1日、首相に指名されて直ちに組閣を行い、秋の首脳外交に向けて準備に入る。原理・原則に立ち返る発想は石破氏の個性だが、外交・安全保障面でそれを貫くには難問が多いと筆者は見ている。
厳しさを増す東アジアの安全保障環境や米中対立が続く状況下で、石破氏は対米・対韓重視の岸田外交を基本的に踏襲するが、インド太平洋戦略では、アジア版NATO(北大西洋条約機構)創設や日米地位協定見直しなど独自のアプローチを加味する。 何事も「そもそも論」「こうあるべき論」が思考回路に組み込まれた石破氏は、原理主義的傾向が強い政治家。今後、根本的な論拠に立ち返る原理思考と、対処すべき現実として立ち現れる状況のはざまで、対米・対中関係の戦略的バランス力が問われる。
アジア版NATOへの野心
外交安保政策に関連して、まず注目されるのは2点。石破氏がかねて提唱していたアジア版NATO構想がその一つだ。 米国が同盟国(日本、韓国、豪州、フィリピン)と個別につながる「ハブ・アンド・スポーク型」安全保障の時代から、米国の力が相対的に低下していく中で米国の同盟国や同志国同士の有機的連携を強化する「ネットワーク型」安全保障への移行の重要性を、石破氏は説いてきた。現存する日米・米韓・米比・ANZUS(米、豪、ニュージーランド)各同盟に加えて、日米韓体制や日米豪印4カ国の協力枠組み「Quad(クアッド)」を同盟の質にまで高めようとする野心的な集団安全保障構想だ。 しかし、言うは易し行うは難し。自身が究極的に想定する集団安全保障(同盟)の中核的概念は「義務」、その意味するところはすなわちアジアの同盟国が攻撃を受けた場合、自動的に「同盟国」と共に戦わなければならない「自動参戦」を指す。 となれば、日本の場合、集団的自衛権を越えたものになるだけに、自衛隊の海外派兵につながり現行法の枠内で収まり切れないとの論点が表面化する。総裁当選当日のインタビューでこの点を詰められた石破氏は、「派兵とかいうのではなく、そのシステムの中でお互いが助け合う義務を負うこと、それがいかに安全保障に寄与するか、それが法的にどうなのかをきちんと詰めていく必要がある」(テレビ朝日「報道ステーション」)と述べるのにとどめ、明言を避けたが、同時に「今回、ウクライナをNATOが助けなかったのは、ウクライナがNATO加盟国でなかったからだ」と強調した。 その言葉の裏には、<自分の国は自分たちで守る><しかし一国で守れない時に備えて同盟を結ぶ><それでだめな時には二国間で守るよりも集団で守る>──「その方が強いに決まっている」との強い思いがある。まずは、国民の覚醒を促す一方で、「今日のウクライナは明日のアジア」と言っているだけの政官界や安保コミュニティーへのいら立ちがあるように見える。