シリーズ・総裁選~新政権 (2)石破流「べき論」外交の当否
対中外交―改善基調に戻せるか
新首相にとって喫緊の課題となる対中外交は、さらに危うさが付きまとう。 懸案の一つ、原発処理水に絡めた中国の日本産水産物輸入禁止問題は、段階的な輸入再開に向けて調整を開始することで合意したものの、中国広東省深セン市で日本人男児が刺殺され、日中間には、国民レベルで険悪な空気が流れる。 男児刺殺事件が発生したのは9月18日、満州事変の発端となった旧日本軍による(1931年)の記念日。反日感情が高まりやすい日に無防備の男児が刺殺されたこの事件を、中国側は「捜査中」「偶発的な事件」としてすり抜けようとする意図が明らかに感じられる。 日中関係は昨年11月の岸田首相と習近平国家主席の首脳会談以降、改善基調にあったが、今回の事件が完全に水を差した格好だ。総裁選で石破氏は9月15日、「日本産水産物の禁輸問題での合意とは別物。輸入再開したからウヤムヤにしていいことには全然ならない」(NHK日曜討論)と、言うべきことは言うとの姿勢を鮮明にしたが、中国側は石破氏が8月に台湾を訪問、頼清徳総統と会談したことをも捉えて、石破氏に警戒を強めている。 その石破の訪台中、永田町に衝撃が走った。岸田首相が総裁選への不出馬を表明(8月14日)、ポスト岸田選びが事実上始まると、政治的空隙を突いて中国の軍事的挑発行動は激しさを増した。 日中友好議員連盟の二階俊博会長(元自民党幹事長)が訪中する前日の8月26日、中国軍Y9情報収集機が長崎県男女群島沖上空に飛来、日本領空を初めて侵犯した。次いで、中国が「国恥の日」とする9月18日、中国海軍の空母「遼寧」が初めて日本の接続水域(沖縄県与那国島―西表島間)に進入。同じ日には、北朝鮮が短距離弾道ミサイル数発を発射した事案も確認された。また、中ロ両国の艦艇が日本周辺を共同で航行する動きもあり、9月23日には、ロシア軍哨戒機が北海道礼文島北方で3回にわたり日本領空を侵犯した。 東アジアの安全保障環境は、確実に厳しさを増している。こうした中、外務省は、まず東南アジア諸国連合(ASEAN)関連首脳会議(10月9日~11日、ラオス)への新首相出席に向けて日程調整に入った。同会議には中国の李強首相も出席する予定で、男児刺殺事件以後初めて、日中首脳級の会談が開かれる可能性がある。 さらに新首相は、11月中旬のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)リマ首脳会議とG20(20カ国・地域)リオデジャネイロ首脳会議に出席する意向で、その際に習近平との初の日中首脳会談開催を実現したい考えだ。中国側としては、不動産不況を機に経済が停滞した現状において対中不信を取り除き、日本の経済力をなお活用する狙いがある。これに対して、中国対応に筋を通す石破氏がどのように中国と向き合うのか注目される。