シリーズ・総裁選~新政権 (2)石破流「べき論」外交の当否
日米地位協定見直しと対米リスク
党総裁選で注目されたもう1点は、日米地位協定の見直し問題。9月17日、石破氏は那覇市の演説会で、自身が防衛庁長官だった2004年、米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落した事故に言及、「すべての対応(は米軍が行い)、残骸は米軍が回収していった。これが主権国家なのか」と指摘し、「私は地位協定の見直しに着手する」と表明した。また、新総裁初の記者会見では、「沖縄県連から地位協定見直しの要望が出ている以上、(総裁として)等閑視できない」と述べた上で、力を込めた。 「米国領土に自衛隊の訓練基地を置くことは極めて有効だ」。それはすなわち、軍の前方展開のためではなく、陸上自衛隊、航空自衛隊が米国の広大な基地で訓練すれば練度が上がり、日米同盟の強化に役立つ。結局、その際には「在米自衛隊地位協定」を結ぶ必要性が出て来るため、在日米軍と「同一、対等」の地位協定を結び合うことになる(「文芸春秋」10月号)というわけだ。 石破氏の持論からすれば、日米地位協定は日米安保条約と一体で、突き詰めれば、地位協定の問題は集団的自衛権の問題、憲法の問題になるという。集団的自衛権が全面的に行使できないからこそ、日米安保体制は非対称双務性を是正できず、日米安保条約は非対称的なものとして依然として存在し続ける。だから、在日米軍の規模を縮小したいなら、集団的自衛権の全面的行使を認め、条約を対称的なものとして主張しなければならないと説く。 石破氏は会見の中で、「米側に対して、いつ提起するのか」との記者の質問には「いつまでにということは、今は申し上げる状況にない」と明言を避けた。そこには、決選投票の際、自身に旧岸田派票を入れてもらうのと引き換えに交わした岸田氏との “密約”(「地位協定見直しに即着手することはない」)があったため、と言われる。 地位協定見直しを本気でやり切るには、多くの時間と併せて巨大な政治的エネルギーを要する。石破氏が、「真の独立国」にふさわしい「対等の日米安保になるべき」という原理思考に安易に陥り、先を急げば、米側の警戒感は高まることになるだろう。