矢野奨吾「好きという気持ちを大切に生きていくこと学んだ作品」内田雄馬×中澤まさとも×江口拓也×今井文也×坂泰斗×浅沼晋太郎とともに『ギヴン』を語る
■好きという気持ちがあるから、生活や自身を支えてもらえている
――みなさんにとって『ギヴン』や演じられたキャラクターはどんな存在になりましたか? 浅沼:ここまで丁寧に、心の中や夢、そして音楽を、人間らしく描いた作品ってそれほど多くないんじゃないかと思ってます。自分にとっても非常に特別な作品になりました。 坂:この作品に限らず、いつでも自分のできる範囲でのMAXで役に挑んでいますが、役者として経験したものを持ってまた玄純を演じることができたのは貴重な経験でした。作品が長い期間続いたからこそだなと感じています。登場人物全員の物語は一区切りですが、まだまだ道半ばというか続いていく途中である気がしていて、終わった感覚は全然ないです。そのくらい大切な作品になっています。 今井:この作品は人物がしゃべっていなかったり映っていなかったりする風景描写でキャラクターたちの心情を描くのが丁寧で、時間をかけて汲み取って演じた作品という印象が強いです。個人的にもほぼデビュー作みたいなものでもあるので、作品やキャラクターたちと一緒に自身が変化し、成長していったと思える作品です。 江口:ネガティブな発想が生まれがちな自分にも、『ギヴン』は寄り添ってくれます。みんながそれぞれ悩みを抱え、それを一緒に背負ってくれたり、共に歩んでくれたりという強いエネルギーを持った人たちが支え合っている部分が、良い作品だなと思います。どのキャラクターも一生懸命生きて自分なりに正解、答えを出していく姿に勇気をもらいました。 中澤:僕も、(クレジットで)上から数えた方が早いメインキャラクターをやるのはこの作品が初めてでした。(共演者は)裏側の努力は見せずカッコいい人たちばかりの中、『映画 ギヴン』でのセリフ「俺って必要なくない!?」は、その時に自分が思っていたことをそのままぶつけていたんです。秋彦に「お前必要だって」「上向かないと」と言われたとき、僕が感じていたものや思っていたことを全部ひっくり返してもらえた気がします。『ギヴン』は仕事をしていく上で心の支えになっていますし、自分を大事にしていけると思える作品になりました。 内田:『ギヴン』は登場人物の匂いを感じます。人が生きた、生きている証が詰め込まれている印象があります。人間は生まれた時が一番ツルツルな状態で、その後は1秒ごとにちょっとずつシワが入ったり傷がついたり、誰しもどこかに“傷”や“跡”を持っていると思います。それが辛いものなのか、自分にとって大切なものなのかの見え方はさまざまですが、その自分自身をどう見つめていくのかを、誰かとのつながりなどをきっかけに感じさせてもらえることが描かれていると思っています。傷だらけの自分でも今のままでいい。むしろ今の自分から先に進んでいこうとか、今の自分を受け止めていけるという、その優しさがある作品ですね。 矢野:真冬は自分の考えを言語化して相手に伝えるのが得意ではなくて、僕も似たようなところがあって。ただ唯一、芝居だけは自分の気持ちをアウトプットできる瞬間だと思っています。真冬も自分が抱えてきた想いを、音楽を通してアウトプットしていく過程で前向きな考えになっていき、いつしか音楽が自分の人生の中で切り離せないくらい大切な好きなものへと変わっていっていて。 僕も好きでお芝居の道を選んだのに、思うようにいかず逃げ出したいと思うことがあったけど、真冬を見ていると好きになる気持ちはとても大事だなって。真冬を通して「やっぱり芝居が好き」「ここでしか輝けない」「好きという気持ちをこれからもずっと大切にしていきたい」と改めて気づかされました。 “好き”という気持ちの裏には、嫌いとか悲しいとか逃げたいとかいろいろな感情もあるけど、“好き”という気持ちがあるから支えてもらえていると思える瞬間がたくさんあります。『ギヴン』という作品からは、“好き”という気持ちを大切に生きていくことを学びました。 取材・文:遠藤政樹