変革にさらされている医療現場を変えるのは誰か?
医療現場を取り巻く現状
さて、今、日本の医療現場は、変革の必要性に直面しています。 高齢化の進展やライフスタイルの変化に伴う疾病構造の変化により、日本の医療は高度化・複雑化してきました。しかし、労働人口の減少・過疎地域の増加等の理由で、有能な医療人材の確保が年々難しくなっています。そのような状況下でも、医療機関は質の高い医療を誰もが平等に受けることのできる環境を守るため、日々努力を続けてくださっています。たとえば、患者さんを中心とした医療サービスをよりよくしていくための地域包括ケアシステムの構築もその一つです。 その実現には、機能を分化し連携を意識した地域医療構想が必要で、そのために、「理念に基づき、地域の現状や時代に合わせて自病院の役割を明確化すること」や「施設を超えた地域連携」「将来の働き手不足を見据えた医療DXの推進」等々のさまざまな変革が必要です。 つまり、現在の医療の世界では「変革をリードできるリーダー」の存在が不可欠なのです。
医療業界でコーチングを受けた人に特徴的に見られる変化
コーチ・エィでプロジェクトをご一緒させていただいている医療機関は、どこも変革の実現を目指してリーダー開発に取り組まれています。 そこで、組織変革を目的としたコーチ・エィのコーチングが、医療従事者のリーダーシップにどのように影響しているかをデータをもとに考察しました。対象としたのは、18の病院においてコーチ・エィのプログラムでコーチングを学習しながら組織内でコーチングを実践した77名と、彼らからコーチングを受けた322名のデータです。 そのデータを、医療以外の業種で同じ取り組みをされている方たち(非医療業種)のデータと比較したところ、医療機関と非医療業種で、違いの目立つ点が2つ見つかりました。それはコーチングを受けた322名の「リーダーとしての意識・行動」に関するものです。 まずは、医療機関の322名のリーダーの「リーダーとしての意識・行動」は、プロジェクト開始時に、非医療業種と比較して低い値を示していることです。しかしプロジェクトの進捗に従い、322名のリーダーとしての意識や行動は、すべての項目で伸びており、開始時と終了時で0.1%水準で有意差が見られます。 もう一つの発見は、「リーダーとしての意識・行動」の中で、とくに「目標達成に向けた新たな関係構築」が、医療機関でとくに大きく変化していることです(4.39 →5.02(+0.63))。この項目は「自分の目標達成のために、普段話さない人とも躊躇せず関わりを持っている」という設問に対する回答です。 加えて職種別に掘り下げても、看護職・医療技術職・事務職では当該項目が一番目、医師でも二番目の伸びになっており、医療機関の全ての職種で特徴的に見られる変化といえそうです。(図1参照) 一方、組織内でコーチングを実践した人のコーチングスキル20項目の変化を医療と非医療業種で比較すると、スタート時のスキルのレベルに違いはなく、終了時には両者ともスキルは伸びており、その伸び幅にも差はありません。 医療機関においては、コーチングする側のスキルは非医療業種と差がないにもかかわらず、受ける側の「リーダーとしての意識・行動」の初期値が非医療業種と比較して有意に低く、さらにコーチングを通して非医療業種では見られない変化が起こるのはなぜでしょうか。 医療機関のコミュニケーションの多くは、必然的に「目の前の患者さんを救う」という緊急で重要な課題解決を目的に交わされているのだと思います。このプロジェクトでは、コーチングする側は相手をリーダーとして開発する目的で関わります。つまり、このプロジェクトによって普段のコミュニケーションと目的の異なるコミュニケーションが増え、それがコーチングを受けている人たちのリーダーシップ開発につながっているということです。 先に述べたように、医療機関と非医療業種でコーチングをする側のスキルには差がありません。それでも異なる結果を生み出しているのは、何のために関わるのかというコミュニケーションの目的が異なるからです。