【衆院選で並ぶ「最低賃金1500円」公約】私たちが幸福になれない3つの問題
衆院選の各党公約で、最低賃金1500円が目立っている。自民党は「2020年代に全国平均1500円」、公明党も「5年以内に全国平均1500円」、立憲民主党、共産党、れいわ新選組、社民党も「1500円以上」としている(「「賃上げ・物価高対策」の各党公約は?多くの党が最低賃金「1500円」引き上げへ」FNNプライムオンライン2024/10/18)。 【図表】雇用、名目賃金、実質賃金の推移 賃上げが物価高に追いつかないことから、賃上げ加速の一つの手段として最低賃金(最賃)を上げようとしているのだろう。2020年代と5年以内は同じなので、自民党も公明党も5年以内に1500円にするということだ。 2024年の全国平均の最賃は1054円だから、年に7.3%ずつ最賃を引き上げていくことになる。ここ10年、最賃は年に3%ずつしか上がっていないから今後はかなりの急ピッチで上げていくということだ。 では、最賃を引き上げれば、すべての人の賃金が上がって皆が幸福になれるだろうか。問題は3つある。
最賃引き上げで雇用が減る
第1には、賃金は上げたら雇用が減るかもしれない。各党がこれをどう考えているか分からないが、中小企業が最賃を上げては困ると盛んに陳情しているから、心配はしているようだ。 しかし、今さらひっこめる訳にはいかない。賃金を上げるには生産性を上げなければならないが、すぐさま生産性を上げることはできない。最賃は名目の値で、物価を考慮した実質の値ではないから、生産性を上げなくても上げることができるという反論があるだろうが、それについては後述する。 普通に考えれば雇用は減るだろう。商品の値段を上げれば売上数量は減る。労働という商品でもそうである。
年収の壁
第2には、年収の壁である。106万円、または130万円を超えると社会保険料を払わなければならなくなり、家計の手取り収入が減ってしまうという問題だ。 厚生労働省はすべての労働者から何とか保険料を取ろうとしているが、保険制度である限り、壁は免れない。これを解消するためには、保険料ではなくて税で賄う社会保障制度を作るしかない。 税なら、50万円稼いだ人は5万円、100万円稼いだ人は10万円、150万円稼いだ人は15万円の税金を取るという制度が可能で、年収が増えたら増えた分の例えば10%を取るだけだから、坂にはなっても壁にはならない。社会保険料では、106万円から1円でも増えたら20万近い保険料がいきなり課せられる。これでは年収の壁を超えて働こうという気になれない。 最賃を引き上げると就労調整する人が増えて、かえって労働供給が減って人手不足が激化する。労働供給が減るのだから、もちろん国内総生産(GDP)は増えない。税収も増えない。 根本的な解決策は社会保障を、社会保険から税による制度に転換することだが、急にはできない。とりあえずは、年収の壁を200万円以上に引き上げることだ。筆者は、そうしておいて10年くらいかけて税による社会保障制度に移行すれば良いと思うのだが、根本的な解決策を取ろうという人はいないようだ(根本的解決策については田中秀明『「新しい国民皆保険」構想』慶應義塾大学出版会、2023年が参考になる)。