ノーベル賞「物理学賞」2018年は誰の手に? 日本科学未来館が予想
■光を自在に操る技術「フォトニック結晶」
カーボンナノチューブの項では、集積回路の素材を従来のシリコンや銅線から炭素材料に変えるという話でした。次は、集積回路の中での情報の担い手自体を「電気」から「光」に変えるという話です。しかし、電気ならば導体(銅線など)と絶縁体を使って好きな場所に導けるのに対して、光はある空間に閉じ込めたり、自由に操ったりすることがこれまで非常に困難でした。 そこに登場したのが、「フォトニック・バンドギャップ(PBG)」を備えた素材です。この素材は特定の波長の光を全く通さない性質があるので、光をPBGで囲むことで閉じ込めておくことが可能になります。
図2がPBGのイメージです。屈折率の異なる素材が周期的に並んでいて、外部からの光の侵入を妨げています。このような「フォトニック結晶」のアイディアを提唱し、光を3次元的に操れる可能性を示したのがヤブロノビッチ博士とジョーン博士です。 一方、野田博士はこの概念を実際にモノとして実証し、応用面で様々な成果を発表し続けています。
図3は、フォトニック結晶の内部に敢えて欠陥構造を作ることで、光の通り道を3次元的に構成したものです。フォトニック結晶に「入力」から入った光が導波路を通って途中で曲がり、「出力」まで届いていることが分かります。 これらの技術を用いた次世代レーザーへの応用も進んでいます。フォトニック結晶の性質を利用することで、小型で直進性が高く、高出力なレーザーを作ることができます。すでに商品化までされており、近い将来には自動運転のクルマで目の役割をするセンサーである「LIDAR(ライダー)」として実装されることも期待されています。 ◎予想=科学コミュニケーター・伊達雄亮
「宇宙分野」にも注目したい
今回は、物性分野の研究を2つ取り上げましたが宇宙分野も可能性はあります。 昨年の受賞テーマの重力波は、たしかに宇宙から来た信号です。2年連続の宇宙分野での受賞は考えにくいかもしれません。 しかし、もし重力波の受賞理由の本質が一般相対性理論にあったとしたらどうでしょうか。アインシュタインが100年前に提唱した時空間の揺らぎの伝搬を人類初観測したことはそれだけでもノーベル賞級の偉業です。一般相対性理論の検証は根源的な物理法則を見つける作業であり、どちらかというと素粒子分野に近いかもしれません。 そう解釈した場合、“前回の宇宙分野での受賞”は2011年の「宇宙の加速膨張の発見」まで遡ることになり、今年こそは純粋な宇宙分野での受賞が来る可能性が残ります。 そこで押さえておきたいのが、未来館でも2015年に予想したミシェル・マイヨール博士とディディエ・ケロー博士による「太陽系外惑星の発見」です。マイヨール博士は2015年にノーベル賞における日本発の先行指標と言われる「京都賞」を受賞していますが、2016年の重力波観測の発表による影響を受けた可能性はあります。また、2017年にはこれもまた国際的に権威のある「ウルフ賞」をマイヨール博士とケロー博士は共同受賞しています。