ノーベル賞「物理学賞」2018年は誰の手に? 日本科学未来館が予想
■カーボンナノチューブの発明と応用への貢献
いま皆さんがこの記事を読むために使っている携帯電話やパソコンの中にはたくさんの集積回路が詰まっています。それだけではありません。デジタルカメラや炊飯器、洗濯機と、集積回路はいまや私たちの生活の一部となっています。その中では電気を操ることで計算をしたり記録をしたりしています。集積回路は発明以来、一貫して微細化が進んできました。ところが近年、発熱などの問題により微細化の限界が近づいていると指摘されています。 そこで注目されているのが「カーボンナノチューブ」という素材です。カーボンナノチューブとは炭素原子が筒状に連なった構造を持つ物質です。その太さは名前の通りナノメートル(1mmの100万分の1)単位と極小です。
このカーボンナノチューブには、軽くて強い、電気を良く通す、熱に強いなどの集積回路の材料として利点となる特徴があります。また、図1のようにさまざまな構造的違いがあります。これらの違いは電気の通しやすさ、つまりは導体になるか半導体になるかの性質の違いとなって現れます。また、直径やねじれ方なども電気的性質に影響します。もし、こうした構造をうまくデザインすることができれば、集積回路の中でこれまで銅線が担ってきた導体材料や、シリコンが担ってきた半導体材料をカーボンナノチューブによってそれぞれ代替することができます。その結果として、さらなる微細化へのブレークスルーにつながることが期待されています。 軽くて丈夫なカーボンナノチューブは、テニスラケットや自転車などでも応用され始めています。こうした次世代の素材であるカーボンナノチューブを発見し、構造を解明したのが飯島博士です。そして、遠藤博士によって安価に大量のカーボンナノチューブを合成する方法が開発されました。 一方、アヴォーリス博士とデッカー博士はカーボンナノチューブを用いて、集積回路の重要な部品の一つであるトランジスタを実際に開発することに成功しました。 こうした研究により、集積回路のさらなる微細化への道が大きく切り開かれたのです。 ◎予想=科学コミュニケーター・清水裕士