「医師の定員増」に韓国の医師が強く反発するワケ
■「問題は医療行政」と医師側は反論 これに対して、医師の側は「そのような利己的な話ではない」と声高に反論する。地方医療機関や緊急性の高い科で医師が不足しているのは、現行の国民健康保険での診療では小児科医などの報酬が少ないという制度面の問題があるため、皮膚科や整形外科などに医師が偏ってしまうのだと主張。見直すべきは医学部の定員ではなく、医療行政だとして、尹政権を糾弾している。 また、急に2000人も医学部生が増えても、教える側の教授らがすぐに増えるわけではないので、指導の質が落ちるとも話す。確かに、定員を拡大した結果として腕の悪い医師が増えてしまうようでは困る。
そして、医師たちが最も憤慨しているように映るのは、尹錫悦政権がこの2月というタイミングで医学部の定員拡大を掲げたことだ。 これは、4月10日投開票の総選挙を意識した人気取りであり、自分たち医師が政治の打算に利用されるのは許せない、と反発する。実際、この問題が広がって尹政権の支持率はアップした。 尹政権は、そうした政治的な計算を否定するが、額面通りに受け止めるのは難しい。選挙が近づいたら国民にウケのいい政策を打ち出すのは、どこの国でもある。
そうした動きが「国民のため」なのか「票欲しさのポピュリズム」なのかは、有権者が判断すべきこと。医師の側はポピュリズムだと声を荒げているわけだが、あまり響いていない。 一方で、医師側の「選挙目当て」という主張が(事実だとしても)説得力に欠けるのは、前の文在寅政権も医学部の定員を拡大しようとしたものの、医師たちがやはりストを構えて断念させたという経緯があるためだ。 しかも、文政権時の攻防はコロナ禍の最中。パンデミックにもかかわらず、職場を放棄するとぶち上げたのだ。「選挙が近いから定員拡大は許されない」と言っても、ではいつならいいのだ? となってしまう。
こうした情勢を踏まえて、尹政権は強気の構えを崩していない。職場放棄の先陣を切った研修医たちに対しては、「病院に戻らなければ医師免許を停止する」と警告し、警察は医療法違反などの疑いで告発された大韓医師協会の事務所などを家宅捜索した。ストを打ち切るよう圧力を強める一手であろう。 ■強気の構えを崩さない尹政権 そして、医学部の「定員2000人増」を撤回する考えもないと繰り返し表明している。 一方、医療現場の混乱が総選挙の投票日まで続くようでは、逆に政権への逆風が吹く可能性もある。このチキンレースは政権側にとっても危険だ。