「医師の定員増」に韓国の医師が強く反発するワケ
韓国全体で医師が少ないところに、大きなアンバランスも加わり、状況を悪化させている。それは、医師たちが、①都市部と、②皮膚科・眼科・整形外科に偏っていて、地方の医療機関での勤務医や、救急医療・産婦人科・小児科といった緊急性の高い部門を志願する医師が大きく不足するようになっているのだ。 ① でいうと、実は首都ソウルの人口1000人あたりの医師は3.9人でOECD平均を上回っている。しかし、これが例えば忠清北道になると1000人あたりの医師は1.9人。地域間で大きな格差が露呈する。
② は、「皮・眼・整」のハングル表記をとって「ピ・アン・ソン/피안성」という呼び方があると今回知ったのだが、要するに、その3つの科の医師になれば高収入が得られるので人気が高いというわけだ。眼科はともかく、皮膚科と整形外科が儲かるのは、外見を大事にする現代の韓国ならではといえる。 こうした現状で手をこまねいていては地方の医療が破綻する公算が大なので、尹政権としては医師の数を増やすことが必要だと主張する。それは、定員拡大の2000人分を地域別に振り分ける計画にも表れている。
ソウルにある医学部は、定員増加なし。ソウルに近い京畿道と仁川市は合計361人。残る1639人(全体の80%強)はそれ以外の地方大学が対象となる。つまり、地方の医学生を増やすことが地方での勤務医増加につながることを期待しているというわけだ。 世論調査を見ると、概ね7割くらいの人が現時点では政府の方針を支持している。医師の不足は数字で示されており、地方在住者はソウルや釜山などとの医療格差を実感することが珍しくないのであろう。
それに対して、医学部の定員拡大に強硬に反対して職場を放棄した医師や教授たちへの共感が広がらないのは、「医師が増える→競争が激しくなる→収入が減る」という展開を避けたいだけだろうと、冷ややかに見られているためだ。 実際、各種の統計で、医師の収入水準が韓国では最も高いという結果が出ている。例えば、OECDの調査で韓国の開業医の収入は労働者の平均の6.8倍で、これは加盟国で最大の格差。病院の勤務医でも平均の4.4倍とのこと。開業医がとりわけ高収入なのは、やはり「ピ・アン・ソン」が多いためであろう。