「高学歴の大企業社員」より「ユーチューバーのHIKAKIN」になりたい子どもを親が否定できないワケ
「いい大学」を経ずとも成功の道はある
YouTuberはいまどきの子どもたちにとって憧れの職業ですが、YouTuberになりたい小学生が、具体的にHIKAKINさんに憧れているとしましょう。毎年数億円を稼ぎ、何十億円も持っている資産家と言われていますが、学歴としては高卒です。 好きなことを続けてきた結果、いまがあるのだとしたら、親としてそんな生き方はするなと否定できるでしょうか? 「お父さん・お母さんよりHIKAKINのほうが稼いでいる」と反論されたら、「YouTubeばかり見ていないで勉強しないと将来困る」と説得しても効果は薄そうです。 「ZOZO」のスタートトゥデイを創業した前澤友作さんも、やはり最終学歴は高卒です。もっとも上場を達成するには高卒が有利というわけではありませんが、かといって「いい大学」を経ずとも成功の道はあることになります。 少し皮肉な話ですが、AIがホワイトカラーを「狙い撃ち」してくるかのように見えるのは、そここそが「お金になる」からです。 要するに、ホワイトカラーと呼ばれてきた人たちがしてきた仕事を、AIで安く、正確に代替していくビジネスには、世界的に大きなニーズがある、ということです。 ChatGPTがあそこまで急激に話題をさらったのは、一般ユーザーにとって新鮮でわかりやすいかたちを示したこと以上に、実際に企業が自社のビジネス効率化に応用できるものだったからです。 ちなみに、ChatGPTを開発している米国の企業・オープンAIは、2022年に5億4000万ドル(約730億円)の赤字に陥ったと報じられたように、現状ではまだ赤字です。それでも開発が進んでいるのは、この先大きなビジネスになることが、多くの人たちによって予測されているからにほかなりません。
ホワイトカラーの未来はどうなるか?
ここから見えることが、ふたつあります。 まず、ホワイトカラーによる知的労働は、全世界的な視点で見ても共通性が高いため、AIが代替できた場合のメリットが大きいと考えられていること。 もうひとつは、逆にメリットが大きくないと見られている仕事には経済合理性が働かないため、少なくとも後回しになっていると考えられることです。 応用が容易な技術で、できるだけ広範囲のマーケットを狙える技術開発こそ、スケールメリットがあります。その観点からは、いままでの社会が持ってきた「いい大学、いい会社……」の流れに代表される仕事がAIのターゲットになることのほうが、むしろ自然なのです。 そして、工場労働に代表されるブルーカラーの仕事は、いままでも機械やロボットの導入などによって省力化、効率化が進んでいたのに対し、相対的に進んでいなかった事務労働が、ついに対象となるときがやってきたとも言えるのではないでしょうか。 ある作業を代替し、危険を減らしながら速度と正確性を上げてきたのが産業用ロボットや機械なのだとしたら、AIは、学習データによって、これまではブラックボックスだった資料集めや要約などといったことを可能にしました。 ホワイトカラーに残された仕事は、「では、どうするか?」の決断だけです。
川村 秀憲(人工知能研究者、北海道大学大学院情報科学研究院教授)