梶芽衣子「77歳で亡くなった母と同い年に。映画『曽根崎心中』の増村監督は、日活にいた20代から憧れ。大切な2人に捧げる、6年ぶりのアルバム『7』」
◆諦めきれなかった詞に音がついて 詞をいただいて、かれこれ40年以上。6年前に出した『追憶』というアルバムのレコーディングのとき、プロデューサーを務めてくれた鈴木慎一郎さんに「気が向いたら音をつけて」と詞の写しを渡したことがありました。彼は50年前に私のアルバムを制作してくれた鈴木正勝さんの息子さんで、赤ちゃんのときから知っています。 実は正勝さんにも、監督の詞をお目にかけたことがありました。でも黙って目を通すだけで、あまり関心を示してもらえなかったような記憶がありますね。 それがなんと今回、『7』の制作に入る前に、慎一郎くんから「あの詞に曲をつけたから」とデモテープをひょいと渡されて。お父様のこともあって、まったく期待していなかったので、とっても嬉しかった。でもあの詞を音にするまでは、私はずっと諦めきれなかったですよ、本当に。 曲はパワフルなロック調。この2曲にかぎらず、アルバム全体を通して、これまで私が歌ってこなかった世界観を表現できたと思います。慎一郎くんは、正勝さんが私に作った歌謡曲や演歌を聴きながら、「芽衣子さんにはロックのほうが似合うのに」と歯がゆく思っていたのですって。(笑) とはいえ、「これ私がやるの?」と思う曲もいっぱいありました。「ムリ! こんな難しいの歌えません」って何度言おうと思ったか。 でも私、「できない」って言葉は一番口にしたくないんですよね。そもそも「慣れ」というのが大嫌い。誰も想像できない世界を、自分の想像力でもって表現し、皆さんに伝えるのが私たちの仕事でしょう? そういう意味でも、慎一郎くんは私のことをうまく挑発してくれたのかもしれません。
ラストナンバーの「修羅の花」は唯一、昔の曲のリメイク。映画『修羅雪姫』の主題歌で、クエンティン・タランティーノ監督の『キル・ビル』の決闘シーンにも使われたことから世界中にファンが多い曲です。 私も大好きで歌番組で歌いたいと思うものの、「怨み節」ばかりリクエストされてしまう(笑)。作曲してくださった平尾昌晃さんからも、「芽衣子ちゃん、たまには『修羅』も歌ってよ」と冗談めかして言われてきたので、新しい「修羅」を歌うことができて、感慨深いものがありますね。 昨年にはイギリスのレーベルから、私が73年に発表したアルバムが復刻されました。海外の、それも若い人たちから「好き」と言ってもらえるのはもちろん嬉しいことですが、なんだか自分のなかではピンとこなくて。 そもそも海外にファンの方が多いのは、昔からなんですよ。90年代には、お友達が海外出張に行くたびに、「ロスで芽衣子ちゃんの作品をみつけたよ」とか「台湾で人気だよ」と、私の古い作品のビデオやDVDを買ってきてくれたものでした。 だから若かりしタランティーノ監督が、ビデオショップでのアルバイトを通じて私のファンになってくださったことも、そうなんだろうなあと思います。でも、やっぱりピンときませんね。 (構成=山田真理、撮影=大河内禎)
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