日本人が知らない「海藻」のすごい技術をカルチャーに昇華させる鍵とは
海藻カルチャーを広めていく上で必要なこと
三木:工業溶剤を流してはいけないけれど、循環される有機肥料的なものは流した方がいいということですね。有害な部分だけを排除するというのが難しいとは思いますが、おもしろい考え方ですね。 相馬:例えば、牡蠣は水質を改善すると言われていますし、工業的な汚水は別ですが、陸の有機物を多く流したとしても、そこにいる生き物本来の能力で循環を促すというのも大切な事なのではと。陸に住む我々と、海にいる生き物を、大きな循環という枠組みで見れば、出すものは出して取るものは取る。これが重要で、漁業者も料理人も流通に関わる人間も、みんなで取り組んでいくべきだと思うのです。 三木:海藻研究費が下りないのは、みんなが海藻に興味を持っていないからだと感じています。しかも買わないから経済規模がどんどん小さくなっていく。だから予算が削られる。悪循環です。ならば、みんなが国産の海藻を積極的に食べれば、そこに予算はつくし、企業も喜んで投資するわけです。だから日本人は日本のものに愛着をもっと持つべきだと思うのです。 アメリカ人のローカルびいきはすごいですからね。スーパーでも消費者はローカルな商品を買います。こうした循環が経済の活性化につながる。自分たちが地域を守るんだ!という意識がとても強い。日本人にはこの感覚がありません。日本のいいところは、他の文化を許容する土壌はあるけど、自分たちの伝統文化はおざなりです。ここを変えないと、経済もよくならないし、地方もよくならない。 ■海藻カルチャーを世界へ ──ロングライフデザインという観点から、新たに海藻カルチャーを広めていく上で必要なことはどのようなことだと考えていますか。 三木:今、ブルーカーボンへの注目が高まっていて、大企業が儲けるためだけに漁師たちを囲い始めています。これはいけない。目先の利益ではなく、いかにしてロングランにみんなが気づいていくかとても大事です。伝統工芸業界も同じで、結局、行き着く先は一人一人がどう伝統を正しく守っていくかということなのです。 相馬:三木さんのようにビジネスからの視点やマインドが大事で、その上で環境を守りながら取り組むことで研究費も賄えるような体制を作っていくことが必要だと思いました。私は手がけている展覧会を、海藻にもっとフューチャーしたものにアップデートさせて、海外で巡回したいと思っています。ロサンゼルス最大の現代美術館とか、ニューヨーク近代美術館MoMAあたりでできたらやりたいです。「サステナブルでこんなに美味しいものです!」と伝えていきたいですね。 三木:昨年Forbes JAPANのカルチャプレナー(文化起業家)に選ばれたことは強みになります。発信する機会がいただけますから。私は海藻分野でやっていますが、他の各分野でも同様にできると思うのです。カルチャープレナーを増やしていくことも一つの解かもしれませんね。 海藻に関しては日本が世界で最も進んでいて、可能性はグローバルに広がっていくと思います。ラッキーなことに、世界ではまだ理解が進んでいないので、海藻だけでなく、「うまみ」や「発酵」など、海外の人が興味を持ちそうな日本のコンテンツ自体、世界の財産になりうるものです。カルチャープレナーになりたいと思っている方は、自信をもって世界に踏み出してほしいと思います。一方で、それらは持続可能な活動でなければなりません。10年後、20年後、いや100年後の未来の子どもたちに伝え残していくという視点が必要だと思います。
督 あかり