なぜ百貨店は正月に休むのか 「人手不足」説に隠れた各社の真意
一般人の視野にも百貨店はない
百貨店で買い物をする一般客も減りつつあることを示すデータもある。マイボイスコムが2023年3月、9705人の男女に調査したところ、56.7%が百貨店について「利用したことがない」「ほとんど利用しない」と回答している。2006年にも同様の調査を行っているが、そのときの割合は18.4%だった。この20年で驚くほど、百貨店に行くという文化がなくなっているのだ。 こうした変化の背景には何があるのか。2000年に大規模な小売店を建設する際の規制が撤廃され(いわゆる「大店法」の廃止」)、ロードサイドに多くの大型商業施設の建設が相次いだ。その代表例が、ショッピングモールである。同時期に進んでいたモータリゼーションを背景に、ショッピングモール・車文化圏が強力に形成され、百貨店・電車文化は斜陽化していく。 そんなショッピングモールでさえ2013年を頂点としてその数が減少傾向にあるのだから、駅前にある百貨店に行く文化が廃れているのは、言わずもがなだろう。そうなれば、百貨店側も一般人ではなく、富裕層やインバウンドにかじを切り始めるのも当然のこと。言い換えれば、富裕層やインバウンドへの「選択と集中」戦略が、元日休業に表れているといえる。
ルイ・ヴィトンに見る百貨店の変化
こうした百貨店の傾向は、特に近年顕著になり始めている。百貨店に入るテナントもどんどん「富裕層化」していて、その1つが高級ブランド、ルイ・ヴィトンだ。 ルイ・ヴィトンはそのブランド力から、地方百貨店にとってぜひとも入って欲しいテナントの1つであり、実際に多くの地方百貨店に入っていた。しかし、地方百貨店におけるルイ・ヴィトンの店舗が、ここ数年で数多く撤退しているのだ。2019年に「トキハ大分店」が、2021年に「神戸阪急店」、2023年に「うすい店」「浜松遠鉄店」が相次いで閉店。今年は「柏店」と「水戸京成店」が閉店した。 興味深いのはこうした閉店と同時に、ルイ・ヴィトンは新規出店も続けていることだ。顕著なのが、東京や大阪といった大都市である。特に新宿は2024年11月に「ルイ・ヴィトン 伊勢丹新宿店 4F」がオープン。その結果、新宿周辺ではルイ・ヴィトンが4店舗もある。 また、インバウンド向けの店舗も増やしていて、2022年には羽田空港、2023年には成田空港、関西国際空港にそれぞれ店舗が誕生。その他、2023年にはインバウンド観光客が多く訪れる北海道のスキーリゾート「ニセコ」への期間限定のポップアップストアも展開しており、都心部や、訪日観光客が多く集まる場所への「集中」戦略を強めている。まさに、「富裕層のための百貨店」のありようが、ルイ・ヴィトンに現れており、こうした動きとも連動して、元日休業も行われているのだ。