100mの桐生祥秀は終わったのか?反撃の一手とは?
夢の9秒台に最も近いスプリンターとして、日本陸上界の男子短距離陣をけん引してきた桐生祥秀(東洋大学4年)が、競技人生で最大の挫折を味わわされている。 先週末に大阪・ヤンマースタジアム長居で開催された日本選手権。男子100mで3年ぶり2度目の優勝を目指した桐生は決勝で10秒26の4位に終わり、8月の世界陸上(ロンドン)の個人種目代表を逃した。 スタートこそよかったものの、直後から左側を走る新星・多田修平(関西学院大学3年)に先行された。思うように加速できない中盤では、右側を走る昨年の覇者・ケンブリッジ飛鳥(ナイキ)にも抜かれた。 号砲直前に大粒の雨が振り出す最悪の気象条件のなかで、サニブラウン・ハキーム(東京陸協)だけは別世界にいた。自己ベストを更新する10秒05で激戦を制した18歳に、主役の座を奪われた。 昨夏のリオデジャネイロ五輪の男子400mリレーで、歴史的な銀メダルを獲得してから約10ヶ月。あまりにも残酷な結果を叩きつけられながらも、桐生は毅然と前を向いた。 「甘く見ていたわけではないですが、日本選手権を終えれば世界選手権まで1ヶ月ほどあるので、そこでしっかり練習しようと。先のことを考えすぎていたところがあるというか、足元をすくわれた感じです」 決勝に臨んだ8人のうち10秒0台が5人。いつ誰が9秒台への扉を開くのか――。日本陸上史上で群を抜くレベルの高さは、桐生によって導かれたと言っていい。 京都・洛南高校3年生だった2013年4月の織田記念で、日本歴代2位となる10秒01をマーク。一躍脚光を浴びた桐生は昨年6月にも10秒01を叩き出し、名実ともにエースを拝命した。 10秒00の日本記録保持者で、現在は日本陸連の強化委員長を務める伊東浩司氏は、「五輪の翌年は世界的に記録が下がり気味になる」と指摘したうえで、桐生についてこう言及した。 「リオデジャネイロ五輪で、かなり追い込んで銀メダリストになった。本来ならば記録が落ちる時期に、桐生君や山縣君はそれを維持しながらロンドンの世界選手権を目指してきた。今回の順位は正直、残念ですけど、今年に関してはいろいろな考え方があってもいいのかなと」 五輪ですり減った身心を休ませる昨秋も、桐生と山縣亮太(セイコーホールディングス)はレースに出場し続けた。今季初戦となった3月のキャンベラ(オーストラリア)での記録会で山縣は10秒0台を連発したが、直後に右足首を痛めた影響で日本選手権では6位に終わった。 リオでアンカーを務めたケンブリッジも、日本選手権3位で世界陸上の個人種目代表に入ったものの、準決勝で右太もも裏に違和感を覚え、決勝では満足のいく走りができなかった。 そして桐生はオフにハンマー投げの日本記録保持者、室伏広治氏に師事して体幹を徹底強化。山縣とともに臨んだキャンベラの記録会で、いきなり10秒04の好記録を叩き出している。