ジェット機と同じ高さで飛行できる「マダラハゲワシ」の凄さと危機
ハゲワシは、ビューティーコンテストで優勝はできないかもしれないが、驚くほど見栄えのする動物であり、生態系のバランス維持に不可欠な役目も担っている。鉤状のくちばしで肉を引き裂き、幅広い翼で帆翔(はんしょう:翼を広げて羽ばたかずに飛ぶこと/ソアリング)し、鋭い視力で数キロメートル先の獲物を見つけ出す彼らは、自然界の掃除屋役として完璧に適応している。 世界に23種が知られるハゲワシのなかでも、ずば抜けた飛行能力をもつのがマダラハゲワシだ。アフリカのサヘル地域に分布するこの壮麗な猛禽は、鳥類の飛行高度の最高記録保持者であり、その記録はなんと海抜約1万1300メートルだ。 しかし、記録を打ち立てた個体は悲劇に見舞われた。そのあまりに桁外れな飛行高度が、民間ジェット機の巡航高度でもあったせいだ。 ■最高記録はどれだけ異例なのか? ほとんどの鳥は、海抜150~600メートルの高度を飛行する。渡り鳥は障害物を避けるため、あるいは追い風に乗るために、より高い領域を飛行することもあるが、それでも、普通は海抜1500~3000メートルに収まる。渡りをする一部のガンなど、ごくわずかな種だけが6000~7600メートルの高度に達するが、これでもマダラハゲワシの記録をはるかに下回る。 高度1万1300メートルは、本当にとてつもない数字だ。その先からが宇宙空間とされるカーマン・ラインは海抜高度100キロメートルだが、その10分の1を超えているのだ。 ■最高記録を打ち立てた個体は、飛行のさなかに命を落とした 1973年11月29日、コートジボワール最大の都市アビジャンとフランスのパリを結ぶ民間航空機のパイロットは、西アフリカ上空を問題なく航行していた。フライトは予定通りに進んでいたが、突如、機内に大きな衝撃音が響きわたった。 機内のクルーは不可解に思った。バードストライクはふつう離着陸時に起こるもので、巡航高度で発生することはない。 着陸直後、地上クルーが飛行機の検査を行ったところ、右エンジンに重大な損傷が見つかった。驚いたことに、鳥の死骸の一部がエンジン部品に食い込んでいた。バードストライクが発生した高度を考えれば、この発見はなおさら奇妙だった。 専門家はすぐに、この鳥の正体をマダラハゲワシと突き止めた。特徴的な羽色とサイズは、発見時の状態でも誤認の余地がなかった。 ■悲運に見舞われた鳥は、この種の中でも変わり者だったのだろうか 記録保持者のマダラハゲワシは、例外中の例外に思えるかもしれないが、実はこの鳥は、高高度飛行に特化している。 マダラハゲワシは、翼を広げた幅が2.4メートルにも達し、熱上昇気流に乗って帆翔する。帆翔というのは、聞いたことのない言い回しかもしれないが、要するに彼らは、地上から上昇する温まった空気の見えない柱に支えられ、力を使わずに何時間も滑空できるのだ。こうしてマダラハゲワシは、はるか遠くの獲物を探すなかで、信じがたいほどの高度に到達する。 マダラハゲワシはまた、ずば抜けて効率のよい呼吸器を持っているため、高高度の薄い空気から酸素を吸収できる。この能力は、他種の鳥にはない彼らの強みだ。マダラハゲワシのヘモグロビンは、酸素との親和性が高いため、高高度の低酸素環境でも身体機能を維持し活発でいられることが、米ネブラスカ大学の生物学者が率いるチームによる2008年の研究で明らかになっている。論文は『High Altitude Medicine & Biology(高高度医学・生物学)』誌に掲載された。 これらは、エネルギーを温存しつつ、広大な領域を移動することを可能にする、マダラハゲワシにとって不可欠な適応だ。 したがって、すべてのマダラハゲワシが1万1300メートルという途方もない高度に達するわけではないにしても、この種のどの個体も、驚異的な能力を秘めていると言えるだろう。地球上の他のすべての鳥を凌駕する高度を帆翔できる能力だ。