ドンキ親会社、創業者の22歳息子を取締役に 安田氏が狙う若返り人事の勝算
ディスカウントストア「ドン・キホーテ」(通称「ドンキ」)を運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(PPIH)の人事に注目が集まっている。新たな非常勤取締役として22歳の若者を候補に挙げたからだ。9年半ぶりに決算会見に登壇した創業者・安田隆夫氏は、その狙いをどう語ったのか。『進撃のドンキ 知られざる巨大企業の深淵なる経営』を上梓(じょうし)した酒井大輔が若返り人事の狙いを読み解く。 【関連画像】創業者・安田隆夫氏の息子で、PPIHの新任非常勤取締役候補として紹介された安田裕作氏(写真=的野 弘路) 2024年6月期で、連結売上高が2兆円を突破したディスカウントストア「ドン・キホーテ」擁するPPIH。 創業者・安田隆夫氏(75)が9年半ぶりに登壇した決算説明会で注目の的になったのが、新たな非常勤取締役候補として姿を見せた一人の若者だ。 「この場でぜひ皆さんにご紹介させていただきたい人物がおります。息子の安田裕作でございます。彼はまだ22歳の若輩者でございますが、今年の年明けから私のカバン持ちとして今はほぼ24時間行動を共にしております。私はこの安田裕作に将来的に当社の大株主である安田創業家当主の地位を譲り、また当社の取締役候補として推挙いたす所存でございます」 安田氏にそう促され、息子の裕作氏が、初めて公の場でマイクを握った。「微力な若輩者に過ぎませんが、今後はPPIHに少しでも貢献できるよう、身を粉にし、精進してまいる所存ですので、これを機にお見知りおきくだされば幸いに存じます。何卒よろしくお願い申し上げます」 ●40代2人にも代表権 PPIHは今回の決算会見に合わせて、取締役兼常務執行役員の森屋秀樹氏、常務執行役員の鈴木康介氏を、それぞれ代表権のある専務執行役員に昇格させることを発表した。森屋氏は現在46歳、鈴木氏は47歳であり、40代の代表取締役が2人誕生する。59歳の吉田直樹社長CEO(最高経営責任者)と合わせて3頭体制になる。 このほか、ユニー社長の榊原健氏が新任の取締役兼専務執行役員となる。さらに非常勤取締役として22歳の安田裕作氏が加わり、9月の株主総会での承認を経て、取締役会はいっそう若返ることになる。そもそも売上高2兆円を超える大企業で、新卒年齢の取締役を迎えるのは、極めて珍しい。 創業家だからというだけではない、明確な理由があると、吉田社長は説明した。 ●「10代、20代の半数を顧客にする」 「当社はこれからの新規顧客の獲得において、10代、20代の50%を顧客にするという野心的な目標を持っております。こういった観点から、今後PPIHの事業には若い感性がぜひとも必要と考えておりました」 ドンキには「顧客親和性」という鉄則がある。店づくりには想定顧客に最も近い店員が関わるべきだ、という考え方だ。 実際、ドンキの顧客層は、小売業界の中でも若い。特に「MEGAドン・キホーテ渋谷本店」では10代、20代の来店客の割合が40%を超える。Z世代(1990年代半ば~2010年代初頭生まれ)に特化した店舗「キラキラドンキ」も業態として確立し、全国に出店拡大中だ。 全国を見渡すと20代の若手店長も誕生している。しかし、取締役クラスで顧客親和性を体現するのは、なかなか難しい。 そこで白羽の矢が立ったのが、裕作氏だった。「20代から30代前半の取締役も可能なんじゃないか、ということでかねて探していたわけですが、今回ようやくご提案ができる運びになりました」(吉田社長) 裕作氏は創業者の家族だけに、若いながらもPPIHの事業への理解がある。実際、高校生のころからMEGAドン・キホーテ渋谷本店や、東京・中目黒の旧本社でインターンをし、社長室にも所属するなどさまざまな経験を積んできたという。 24年1月、PPIHグループに入社。現在は子会社であるPPRM(Asia)、PPRM(USA)の取締役を務め、今後アジアか北米のいずれかで常勤する予定だ。