ドンキ親会社、創業者の22歳息子を取締役に 安田氏が狙う若返り人事の勝算
20代が未来をつくれる会社に
巨大企業となったPPIHの精神的支柱になっているのは、創業者である安田氏が渾身(こんしん)の力を込めてしたためた企業理念集「源流」である(関連記事:ドンキ、35期連続増収増益に挑む カルト集団のごとき理念の徹底実践 )。 源流を血肉にし、役員を含む社員一人ひとりが自ら考えて行動することが組織に浸透したことで、PPIHは一枚岩となって貪欲に成長を追い求める企業集団へと変貌した。しかし、安田氏自身が発する肉声の存在感は依然として大きい。それは安田氏自身が、最も自覚している。 「問題はこれからでございます。当然のことながら、私は後期高齢者でございます。当然のことながら、生物学的な限界も当然あります。そうした中で、私たちPPIHグループが未来永劫(えいごう)、輝き続けるためにはどうしたらいいのか。そればかりをここ数年間考えてきた実感がございます」 その答えの一つが「大きな若返り」の断行だった。 「森屋とか鈴木とか、新しいメンバーがまさにリーダーシップを握る立場になり、彼らがこれから新しい気風を吹き込んでくれるものと期待をしております」 それと同時に、安田氏が熱視線を送るのは20代の台頭だ。 「安田裕作をご紹介いたしましたが、私には20代を中心としたメンバーが、これからの未来をつくらなければならないという切迫感もございます。私たちリアル店舗を取り巻くネット環境のさらなる進化、および今後の顧客対応に対する機敏な対応。こうしたものにはやはり若い感性が必要です。消費者と最も(年齢が)近い人たちが、何をおいても『この仕事は面白い、楽しい』(と感じる、)そんな環境をつくれたらいいなと私自身も思っております」 一代で急成長した企業ほど、世代交代が難しい。小売大手ではファーストリテイリングも、創業者である柳井正氏の長男と次男を取締役に迎えた。PPIHやファストリの決断は、経営において創業家と執行部の関係性をどう構築するかを考えるモデルケースになりそうだ。 ファストリの場合は、柳井氏と長男、次男の3人で発行済み株式の4分の1以上を持つ大株主でもある。一方、PPIHは安隆商事(東京・千代田)が5%強、公益財団法人の安田奨学財団が2%強の株式を持つが、大手金融機関が株主の中核となる。保有株式の割合を見ると、創業家といえどもファストリほどの影響力はない。 決算や人事の発表を受けて、8月19日の東京株式市場ではPPIHの株価が前週末日比で一時8.65%安となる3400円をつけるなど、急落した。25年6月期の業績見通しで連結営業利益は前期比7%増を見込むものの、純利益は2%減になりそうだと発表。市場予想を下回る見通しに対して売りが膨らんだとみられるが、そこには人事に対する評価が含まれているとも考えられる。 こうしたマーケットの評価をどう打開していくか。PPIHの場合、人事は「完全実力主義」で決まる。やる気があれば思い切って登用する半面、降格も活発だ。創業家出身として異例の抜てきとなった裕作氏だが、他の社員と同様、結果を残すことを何よりも求められるのは間違いない。 裕作氏は入社後、海外のDON DON DONKI(ドンドンドンキ)で展開する、すし店などで勤務したことに触れ、「これから(世界に)拡大していく飲食業態について深く関わっていきたい」と意欲を示した。 今後、創業者の安田氏から「当主」の座を引き継ぎ、いわばオーナーとして、会社と向き合う姿勢も問われる。難しい立場だが、裕作氏が実力を発揮し、社内の求心力を得ることができれば、PPIHは組織として若々しさを保ちながら、さらに進撃を続ける道が開ける。
酒井 大輔