「養育費は月1万6千円です」小児がんの息子を看病する女性を絶望の底に突き落とした通告 「父の日」が襲う恐怖とは…
息子の異変に気付いたのは生後9カ月のこと。顔にマヒが出て、耳も聞こえづらくなっていた。MRIなど何度も検査を受けた末、「がん」と判明。手術を控えた3月に入院した。歩き始めるかなと思っていたころだった。 検査は続いた。小児がんの中でも、1~2%しかいないとされる、まれな病気だった。「どんな病気なのか」「何かできることはないのか」。ネットで懸命に情報を探す松本さんの心をすり減らせたのは、すぐに目に留まる「致死率は50%」の文字だった。 ▽逃げられない「父の日」 医療費は無料だ。だが、病院に行くために仕事を休むたびに給料は減る。キャリアは諦めた。デザインの社内コンペで受賞したこともあったし「何よりこの仕事が大好きだったのに」。 育休の関係で、2023年の年収は150万円弱だった。手取りは100万円を切った。 自分のものは全て削った。服は3年くらい買っていない。出産や検診費用には100万円くらいかかったが、国や自治体の支援金ではとても足りなかった。子どもの食事、服、おもちゃといった生活費に加え、保育園代も重くのしかかる。保育園は非課税世帯は無料だが、松本さんの収入はその対象を超えていた。
息子は新型コロナやインフルエンザ、アデノウイルスなどに次々と感染し、自分にもうつる。思い返せば、息子の体調が良かった日なんて一日もなかった。今では耳は片方しか聞こえず、抗がん剤治療の影響からか、もう片方も聞こえにくくなっている。 育児に追われ、一つのデザインを作るのにも時間がかかるようになった。それでも息子のせいだとは思っていない。 ただ、恐れていることもある。息子が将来、父親のことを聞いてきたときだ。絵本にも父親クマが出てくるし、保育園の送迎をする他の子の父親も見ている。きちんと話さなければならないと思う。「父親はいるけれど、けんかをして別のところにいるんだよ」と。もし息子が傷ついたら、そのケアをしなければならない。これから毎年「父の日」が来るたびに、その恐怖と向き合わなければならない。「どこまで私にばかり責任を負わせるのでしょうか」 息子の病気が判明し、彼の代理人とも連絡が取れないため、2023年10月、彼のEメールにこんなメッセージを送った。「3月から連絡が途絶えています。当方代理人宛てに協議書の回答をお願いします」。すると彼はX(旧ツイッター)でこんな投稿をした。「私的な内容のメールはお控えください。仕事用のアドレスなので、節度を持ってご連絡頂けるとありがたいです」