「養育費は月1万6千円です」小児がんの息子を看病する女性を絶望の底に突き落とした通告 「父の日」が襲う恐怖とは…
彼とは何度も話し合ったが、そのたびに彼の言葉は二転三転した。 「実家のことは気にしないで。2人を支えるのが本望だから」「俺が結婚すると決めたんだから文句は言わせない」。力強く言い切った直後、外に電話しに行き、戻ってくると「ごめん。やっぱり結婚はなしで」。 松本さんも反論した。「はいそうですか、なんて言えない。もう堕ろせない」。すると彼は泣き始めた。「実は叔母から、結婚するなら勘当するって言われた」 彼に自分の母親と電話させた。母は彼にこう伝えた。「大事な娘を任せると決めたし、あなたは家に来て結婚すると言った。自分たちで決めなさい」。彼の返事は「やっぱり結婚します」。 そして再び叔母に電話した彼はやはり松本さんの母にこう告げた。「申し訳ないですが、結婚はできないです」。さすがに母も怒った。「もう話すことは何もない」 ▽彼の逃亡、そして出産 出産予定日を翌年1月に控えた2022年10月。結婚を巡るやりとりが平行線をたどる中、松本さんは彼に迫った。「先に認知だけでもしてほしい」。彼は「結婚がダメでも養育費は払いたいし、認知もしたい」と答えた。ただし、こう付け加えた。「叔母がDNA鑑定してほしいと言っている」
もはや不信感しかなかった。それからはケンカばかり。そして彼は家に帰らなくなった。いつ産気づくか分からない不安を抱えながら、松本さんは一人、少し広い部屋に取り残された。12月、彼とは会えないまま、里帰りした。置き手紙には「ちゃんと話したい」と書き残した。 クリスマスに突然彼から届いた手紙にはこう記されていた。「家を退去したので鍵を返します」「おなかの子が無事に生まれてきてくれることを祈っています」 ▽致死率50% 2023年1月。無事に出産した。 元気で生まれてきてくれたことと、すくすく育つことへの喜びを切り裂くかのように、3月、彼の代理人弁護士から連絡があった。「養育費は月1万6千円です」。さらに「育児への協力については、申し訳ありませんが、対応いたしかねます」「このことは口外しない約束を結びたい」。松本さんはその内容に、ただただ目を疑った。 それ以降、その弁護士との連絡がなかなか取れなくなり、松本さん自身も弁護士を立て、DNA型鑑定をすることに双方が同意した。だが話は一向に進まないまま、11月、息子に腫瘍が見つかった。翌2024年の3月に腫瘍摘出手術が決まったが、手術を数日後に控えたある日、彼は全国ツアーで東京から姿を消した。松本さんはこう確信した。「逃げたんだ」