“キャリア40年”でも「若手」!? 伝承者を目指す若者が減少傾向に…伝統芸能「人形浄瑠璃文楽」の魅力を解説
◆「太夫」の道に進んだきっかけ
呂勢太夫さんは、子どもの頃にNHKで放送されていた連続人形劇「新八犬伝」を観たのがきっかけで人形劇が好きになり、9歳のときに親が「人形劇が好きなら『文楽』というのがあるよ」と教えてくれて、国立劇場に連れられ舞台を観劇。「“退屈するだろうな”と思っていたんですけど、すごくハマってしまった」と振り返ります。 舞台の内容はよく分からなかったものの、音楽好きでもあった呂勢太夫さんにとって、視覚的な人形の動きと義太夫節の三味線に魅せられ、それから、たびたび劇場に通うように。 そんなある日、劇場帰りにレコード屋へ立ち寄り、「義太夫のレコードを買ったんです。(そのレコードを)聴いているうちに、義太夫節にすごくハマってしまい、“自分もやってみたい”と思って稽古を始めて、気が付いたらプロになっていた感じです」と経緯を語ります。 そんな呂勢太夫さんに文楽の魅力を尋ねると「特に義太夫節は、観るよりもやるほうが楽しいんですよ」と言います。呂勢太夫さんいわく、明治、大正、戦前あたりまで、今でいうカラオケのような感じで“義太夫”が流行していたため、一般の人たちにも親しまれ、しかもアマチュアがたくさんいたそう。 その理由について、呂勢太夫さんは「普通、声を使った音楽は声がきれいじゃないとできないんですけど、義太夫は声がきれいじゃなくてもいいんです。どうしてかというと、登場人物の気持ちを語ることがメインなので、別に声がきれいじゃなくてもいい、だから誰でもできる。なので、カラオケは歌しかできないですけど、(義太夫節は)劇的な部分と音楽的な部分の両方あって、そのどっちもやれるんです。だから(両方を)やりたい人にとってみれば、義太夫節は非常に魅力的な音楽なんです」と力説します。
◆文楽は「頑張れば上にいける非常に魅力的な職業」
魅力あふれる文楽ですが、国立劇場養成所は、1970年から伝統芸能伝承者養成事業をおこなっているものの、伝承者を目指す若者が徐々に少なくなってきており、現在も現役で活躍している方は、太夫が22名、三味線弾きが22名、人形遣いが42名で「世界中に86名しかいない」と呂勢太夫さん。 世界に誇る日本の伝統芸能・人形浄瑠璃文楽の歴史が途絶えてしまわないためにも、国立劇場養成所では、一般の若者から研修生を募集して研修をおこない、文楽の担い手を送り出しています。なお、いま活躍している86名のうち、約6割は養成所出身者で、呂勢太夫さんは、文楽の第8期研修生にあたります。 また現在、文楽の第33期の研修生と、29期の歌舞伎俳優の研修生を募集しています。研修期間は2024年4月から2年間。応募資格は、原則として23歳以下で中学校卒業、または卒業見込み以上の男子、経験は問いません。 呂勢太夫さんは「日本の古典芸能って、ほとんどが世襲制度や家元制度ですけど、義太夫は家元制度もないし、文楽は世襲でもないので誰でもやれる。これは昔からなんです。だから“やりたい!”と強く思えば誰でもプロになれます」と強調します。 ちなみに、文楽研修講師でもある呂勢太夫さんの目から見た“この道に向いている”と思う人は、「素直であること」「好きになること」「我慢強いこと」の3点。というのも、「芸の花が開くときって60~70歳ぐらいなんです。仕込みの時間がとても長いので、焦らず地道にずっと続けられる能力が非常に大事。そして、このなかで一番大事なのは“好きになること”」と話します。 改めて、呂勢太夫さんは「登場人物の気持ちをお客さまに伝えるのが仕事ですから、技術だけではダメ。キャリアが必要なので、そこは大変ではあるけれど、実力主義で家柄も関係なく頑張れば上にいける、非常に魅力的な職業です。志のある人、お芝居をやりたい人、歌を歌いたい人、自分で何かを表現したいという人は、ぜひ文楽に挑戦していただいて、今まで先人が伝えてきたものを受け継ぐ人になっていただきたい」と呼びかけていました。