相性抜群の「スーパーアプリ×生成AI」、アリババが無双の予兆「AI実装」何が凄い?
革命の下地ができていた、アリババのスーパーアプリ
生成AIの能力を引き出したのは、アリペイが「スーパーアプリ」であるからだ。アリペイは決済だけのアプリではなく、生活の用事のほとんどをアプリ内で済ませることができるほどの機能を備えている。 たとえば、ホテルの予約、新幹線や飛行機のチケット購入、ECでの買い物、カフェや飲食店のモバイルオーダーや予約など。このような機能は「ミニプログラム」という形で提供されている。 ミニプログラムとは、アリペイ専用のアプリ内アプリで、個別にインストールすることなく、呼び出すだけで利用できる。ユーザー登録や決済手段の設定も不要で、アリペイのアカウントで自動ログインし、決済手段は自動的にアリペイが使われる。アリペイでは4万種類以上のミニプログラムが利用でき、生活サービスだけでも8000種類以上が利用できる。 たとえば、スターバックスに一度も行ったことがない人でも、アリペイの中からスターバックスミニプログラムを呼び出し、そのままモバイルオーダーをし、決済まで済ませることができる。注文票などはアリペイの中に自動保存されるため、店頭で注文票を見せるだけでコーヒーを受け取ることができる。 このミニプログラムが中国の消費行動を大きく変え、ミニプログラム生態圏を構築したアリババの「アリペイ」、そしてテンセントの「WeChat」の2つがスーパーアプリと呼ばれるようになっている。
移動・予約・決済「生活のほぼすべて」が変わる
アリペイの対話型生成AI機能「支小宝」は、このようなミニプログラムにアクセスをしてコンテンツ内容を検索することができる。 たとえば、「この近くに本日宿泊できるホテルはありますか」とチャット形式(テキストまたは音声入力)で尋ねると、AIがホテル予約ミニプログラムにアクセスをして、宿泊可能なホテルのリストを作ってくれる。利用者はその中から希望のホテルを選んで、タップをするだけでホテルの予約まで進める。 新幹線や飛行機などのチケットも同様にチャット形式で予約ができる。「来月、北京から上海までで、最も安いチケットは?」などという尋ね方もできる。「この近くで見られるおすすめの映画は?」と尋ねると、位置情報を基に近くの映画館で上映中の映画を調べ、その映画のあらすじや評価サイトでの評価点数を教えてくれる。タップをすれば、チケットが購入でき、そのチケットはアリペイの中に自動保存される。 移動する際にも使える。「A地点からB地点まで移動したい」と投げかけるとルート検索をしてくれる。地下鉄、ライドシェア、シェアリング自転車などを利用するルートを選ぶと、位置情報が地下鉄駅付近になると地下鉄の乗車コードをアプリの前面に表示してくれる。ライドシェアが必要な場合は、事前に「ライドシェアを呼びますか?」と提案してくれる。 つまり、アリペイを使ううえで、これまでは自分でミニプログラムを探したり、検索したりしなければならなかったが、その作業をすべてAIが代行してくれる。 アントグループ「支小宝」プロダクト責任者の王翼飛氏は、9月にこの支小宝の発表を行った「2024Inclusion外灘大会」で、「管家」(訳:執事)という言葉を多用した。生活のすべての面倒を見てくれる執事のような存在を目指しているのだという。 この効果は大きい。人間が1つの行動を決定するまでの「購買意思決定モデル」で比較してみると、従来のミニプログラムに頼るやり方では6ステップが必要で、しかもそのうちの4ステップはスマホの操作が伴う。 しかし、支小宝を使うと、最初のステップでやりたいことを伝えるだけで、ステップが1つ少なくなり、しかもスマホの操作を必要とするステップは1つだけになる。使ってみるとわかるが、この差は大きい。 王翼飛氏のチームでは、2018年からアリペイに「AI執事」を搭載するプロジェクトを始めていたという。当初は「アンナ」という名称のアシスタントを開発しようとしたがサービス化には至らなかった。 しかし、2022年になりChatGPTが登場、生成AIが一気に広がり、アリババでも「通義千問」を開発できたことからプロジェクトが一気に進んだ。2024年5月からアリペイ内のミニプログラム「スマートアシスタント」として評価版を公開し、9月になり正式に「支小宝」としてミニプログラムとアプリの形で公開された。