「ハーバードより難しい」合格率3%…ミネルバ大学とは? 世界7都市を移動、卒業生が語る学生生活
授業は1日2コマで週4日
――特に印象に残っている授業など、大学の学びについて詳しく教えてください。 衝撃的だったのは、1年全員が受ける「システム思考複雑系」という授業です。例えば戦争について考えるなら、戦争が起きる理由を社会の動きからひもといたり、人々がなぜ群れようとするのかを考えたりします。この授業を通じて、社会をシステムとしてとらえる思考法が身に付きました。 また、地域のパートナーと協働する授業では、企業と一緒にオンライン学習の空間設計のために調査をしたり、ロンドンでは地産地消のデリバリーサービスのブランドビデオを制作したりしました。オンラインの授業は1日2コマ・週4日なので、それ以外の時間の使い方は個人の裁量に任されています。僕はYouTubeなどでインフルエンサーとして活動していました。 ――ミネルバ大学にはキャンパスがありませんが、そのことについてはどのように感じましたか。 キャンパスがあったほうがいいと思うこともありました。まずはコミュニティー形成のしやすさの面です。ミネルバ大は全寮制なので自然と友達はできますが、学年ごとに都市を移動するので縦のつながりは生まれにくい。キャンパスがあったほうが、学年を超えたつながりは生まれやすいかもしれません。また、いろんな学問に取り組む人たちの出会いの場としては、やはりオフラインの研究機関などにも強みがあると思います。 人が集まるための場所や新たな知の交流拠点として、僕はキャンパス自体はあってもいいと思っています。キャンパスに集まる人を見れば、そこがどんな大学かもわかります。志望校のことを知るためには、目指す大学の人と一度は話してみるといいと思います。 ――現在は、その「目指す大学の人と話す」機会を作ることに注力しているのですか。 「グローバルな進路選択の民主化」を掲げて、「52Hz(ヘルツ)」という大学生と中高生のコミュニティーを運営しています。ここには海外進学を目指す全国の中高生と、メンターとなる現役の海外大学生が合わせて400人以上参加しています。情報交換しながら励まし合える、放課後のサードプレイスのような場になっています。 日本で海外大学に進学するのは、東京や大阪といった大都市圏に住んでいる人か、帰国生などのアドバンテージがある人ばかりです。興味はあっても具体的にどうすればいいかわからない人がほとんどで、彼らの一番の痛みは、分かち合う人がいない孤独感です。彼らへの支援は日常的に行うことが重要ですが、地域格差も非常に大きく、京都出身の僕も孤独でした。 僕は子どもの頃から、機会や体験に格差があるのが嫌で、それを埋める方法が知りたいと思っていました。人はどんなときに変われるのか、人生を好転させる機会や偶然の出会いは、どうしたら増やすことができるのか。こうした課題を感じていたことと、ミネルバ大学で得たものが、いまの活動に生きていると思います。 ――ミネルバ大学で得たのは、具体的にどんなものですか。 「まずは自分なりにやってみる」というマインドセットの人に囲まれていたことは大きかったですね。いろんな生き方があって、高給取りになったり大きな成功を収めたりすることがすべてではないと感じました。また、大学時代にYouTuberをやっていたおかげもあって、人のネットワークを得ることもできました。どちらも高校時代には持ち得なかったものです。 日本は同じような道を選ぶ人が多く、とくに若いときにそのしがらみから抜け出すのは難しい。でも、進路はもっと自由に考えたらいい。多様な「越境」ができるように、支援を進めていけたらと考えています。 ――進路を検討中の高校生にメッセージはありますか。 伝えたいことは2つ。まずは「自分の納得できる道を選んで」ということです。ほかの人のことも、偏差値のことも気にしなくていいし、「楽したい」という動機で進学しても、大学に行かなくたっていいと思う。たとえ後悔するとしても、自分で選べばそれでいいと思います。 もうひとつ、他者の言葉を借りて伝えたいのが、孫泰蔵さんが著書で語っていた「親の言うことだけは絶対に聞くな」ということです。子を思っての言葉であっても、それをうのみにすると「親のせいで望む道に行けなかった」と悔やむし、そんな子どもの姿に親も後悔します。だれも得しないんです。僕はひとつだけ親の言うことを聞きました。それは「自分のやりたいことをやれ」というもの。親の言うことの「いい聞き方」をしたな、と思っています。
朝日新聞Thinkキャンパス