「お前はどうしたい?」しか言わない上司の自己満足 「考えさせる風」コミュニケーションが招く悲劇
「お前はどうしたい?」という問いかけが、職場で頻繁に聞かれるようになった。リクルートの企業カルチャーが発祥とされるこの言葉は、部下の成長を促す効果的なフレーズとして広く認知されている。しかし実際には、上司の自己満足で終わってしまうケースが多い。 【その他の画像】「考えさせる風コミュニケーション」に困り、うつむく女性(イメージ) なぜなら部下は明確な答えを求めているのに、上司は思考を深めるための問いかけのつもりだからだ。この認識のズレが、若手社員の成長を阻害する要因にもなっている。 今回は「お前はどうしたい?」という言葉の真の意図と、その落とし穴について解説する。若手の育成に携わるマネジャーはもちろん、部下の成長に悩む上司にとっても参考になる内容だ。ぜひ最後まで読んでもらいたい。
リクルートで「お前はどうしたい?」と聞く意図
「お前はどうしたい?」という問いかけには、当事者意識を醸成する狙いがある。部下に自分で考えさせ、自発的な行動を促すためのものだ。実際にリクルートでは、この言葉を通じて多くの人材が育っている。 創業者の江副浩正氏は、社員に対して「こうしろ」とは言わなかった。代わりに「君はどうしたいの?」と問いかけ続けた。それは自分で考え、決断する力を養うためのようだ。この考え方は今でも、リクルートの企業文化として根付いている。 このように「お前はどうしたい?」という問いかけには、深い意図が込められている。単なる思考の促しではなく、リクルートという企業の価値観そのものが表現されているのだ。だからこそ多くの社員が、この問いかけを通じて成長を遂げてきた。 しかし、この手法を他社でまねしても、同じような効果は期待できないのではないか。なぜなら、この問いかけの背景にある企業文化や価値観が伴っていないからだ。単に言葉だけをまねても、相手に意図は伝わらないものだ。
「お前はどうしたい?」しか言わない上司3つのタイプ
このフレーズだけを連発する上司には、次のような3つのパターンがある。 1. 答えを持っているのに教えたがらない 2. 答えが分からないので尋ねる 3. 答えを教えるべきなのに優越感に浸りたい 第1に、答えを持っているのに教えたがらないパターンだ。 「大きな商談が入っているのに、先輩から勉強会の講師をやってくれと言われています。どうしたらいいですか?」 部下からこのような相談を受けたとしよう。今回の大型商談を決めないことには、今期の目標達成が見えない。勉強会の講師なんて引き受けている場合じゃないだろう。そう上司は言いたいが、それでも、 「お前はどうしたい?」 と尋ねる。部下に考えさせることで成長を促したいからだ。考えあぐねて焦っている部下を見ても冷静に対応する。 「そんな顔をしても、答えは教えないぞ。お前はどうしたい? よく考えるんだ」 第2に、上司自身も答えが分からないので尋ねるパターンだ。 「お客さまの課題解決の提案をしたいと思っています。しかしいろいろとヒアリングしたら課題が山積みで……。どこから手をつけたらいいのか分かりません」 部下からこのような相談を受けたとしよう。しかし上司も判断がつかない。あまり深く考えたことがない上司は、具体的な事情を知っても答えを見いだすことができそうにない。適切なアドバイスも思い浮かばない。そういう場合、 「お前はどうしたい?」 と尋ねて逃げるのだ。部下に考えさせるためではなく、自分の中に答えがないのでそう問いかけるしかないのだ。 「考えても分かりません。課長はどう思いますか?」 と聞かれても、 「大事なことは、お前がどうしたいか、だ」 と言って逃げる。