被害対策弁護団の戦略、エクシア「債権者破産申立」の舞台裏
多額の出資金を集めたものの、2022年3月頃から返還が滞っていたエクシア合同会社(TSR企業コード:014686724、墨田区、代表社員:菊地翔氏)が10月18日、東京地裁から破産開始決定を受けた。被害者は9,000人、出資総額は850億円に上る。 事実上、事業を停止した状態が続き、投資からの訴訟が相次いでいた。数年にわたる投資家や弁護士の地道な戦いが節目を迎えた。 東京商工リサーチ(TSR)がエクシア破産までの舞台裏を取材した。 ◇ ◇ ◇ エクシアは、個人投資家などから合同会社の社員権の出資を受ける形で資金を集めていた。公表値によると、2022年11月4日時点の累計出資者数は1万1,974名、累計出資額は723億円に上る。 エクシアが当時公開していたホームページ(HP)などによると代表社員の菊地翔氏は、独学で金融トレーダーの知識を積み、海外ヘッジファンドや海外証券会社の為替トレーダーに就任した経歴を誇示していた。 エクシアは、出資により得た資金を投資や融資、出資払戻しの原資に充てていたようだ。代表者や幹部の豪勢な生活ぶりがX(旧Twitter)などで拡散され、知名度が上がるにつれて出資総額が急拡大。2019年12月期の総資産は96億7,824万円に達した。 しかし、当初からエクシアのスキームに疑念を抱く声は多かった。そして、2022年3月頃から「退社」拒絶や代表社員の裁量として払戻金額の総額規定を設け、出資金の払戻しに応じないなど、投資家とトラブルになった。 こうした騒動が大きくなった2022年10月、「文春オンライン」がエクシアの疑惑を報じ、11月には「現代ビジネス」、TSRも「投資家とトラブル多発」として記事をリリースした。 エクシアはこの後、突如、本社移転や代表社員を変更すると公表し、連絡が取りにくい状況に陥った。
被害弁護団の結成
出資金返還のトラブルが表面化した2022年夏。リンク総合法律事務所に所属する弁護士で構成される被害対策弁護団(団長:荻上守生弁護士、事務局長:小幡歩弁護士)が結成された。同事務所の所長である紀藤正樹弁護士は、オーナー商法の(株)ケフィア事業振興会(TSR企業コード: 298080745、千代田区)の被害弁護団の団長も務めた人物だ。 被害対策弁護団に参加した投資家などの原告は、第1弾、2弾で合計約50名まで拡大。被害弁護団は現在評価額の払戻しを請求し、訴訟は2023年5月に被害弁護団が勝訴した。 被害対策弁護団で事務局長を務める小幡歩弁護士がTSRの取材に応じた。 小幡弁護士によると勝訴後、被害弁護団はエクシアの銀行や不動産等の資産を調査した結果、それらの一部が見つかったものの、資産価値が低かったり、滞納処分等により回収ができなかった。そこで考え出したのが、債権者として破産を申し立てることだった。 一般的に債権者申立てには、破産原因の事実の疎明以外に、債権の存在、そして予納金が必要になる。さらにこれらを秘密裏に行う必要がある。 債権は、勝訴により強制執行が可能な債務名義を取得した。次の問題は、予納金だった。 自己破産の場合、破産する側が予納金を収める。だが、債権者申立ての場合は、債権者側が用立てる必要がある。予納金は負債総額に比例する。東京地裁民事20部では、法人は負債5,000万円未満が70万円。これが100億円以上となると700万円以上になる。 エクシアの負債総額は決算書などの開示がなく判明しない。そこで被害弁護団は出資者などに説明会などを開き、理解を得たうえで1,000万円を用意した。準備ができた2024年7月1日、東京地裁に債権者として破産を申し立てた。 通常、債権者破産の流れは、申立て後、裁判所が審尋を開く。そこでは申し立てられた側は破産原因となる事実はないと反論することも多い。だが、小幡弁護士によると、エクシアは弁護士も立てず代表の菊地氏が対応したが、特に大きな反論はなかったという。 そして10月18日、東京地裁は破産開始決定を出した。 ◇ ◇ ◇ 10月21日、エクシア代表の菊地翔氏とみられる人物のSNSライブ配信で「私は嘘を言っているわけでもないし、金を隠しているわけでもないので、どうぞ破産してくださいが私の声明でございます」と言い放った。 エクシア合同会社の破産管財人に選任された小田切豪弁護士(三宅・今井・池田法律事務所)は、破産管財人HP(https://www.exia-kanzai.com/)を開設している。HPのQ&Aには、代表者(菊地翔氏)の破産について「現時点では、破産申立てがなされていません。今後、破産申立てがなされるかは不明です」と記載されている。 被害弁護団の小幡弁護士は、破産管財人に対して「これだけの資金を集めている。代表や幹部の役割や事業の内容、資金の流れなどの情報開示をお願いしたい。実態解明をして少しでも被害回復に繋げてほしいと強く要請していく」という。 被害対策弁護団とは別にエクシアに訴訟を提起していた唐澤貴洋弁護士(法律事務所Steadiness)は、TSRの取材に対して「菊地翔氏には、管財人に誠実に協力して、エクシアの資金流れがどうあったのかを明確にする責任がある。資金の動きにおいて、法律上の問題がある場合は、管財人において躊躇なく告発を行い、司直の手で強制捜査がなされることを期待している」とコメントした。 これから破産管財人の手でエクシアの資産状況や資金の流れなどが調査される。9,000人の出資者から集めた850億円もの資金はどこにあるのか。あるいはどこに消えたのか。その答えに注目が集まっている。 (東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年10月25日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)