ストーンズやポスト・マローンとも共演、レイニー・ウィルソンが語る「カントリー音楽の今」
「Country’s Cool Again」と歌う理由
―ソングライターとしてはどんな立ち位置をとっているんでしょう? レイニー:私にとってソングライティングは、セラピー代わりだという側面がすごく強くて、自分はシンガーである前にソングライターであり、かつストーリーテラーなんだと思ってる。そのことがカントリー界で成功するにあたって重要な役割を果たしたことは間違いないし、中には自分が自ら体験しないと扱えない題材もあるんだけど、他方でストーリーテラーとしてほかの人たちの視点に立って曲を綴ることもできるでしょ? そして色んな人の生き様について学ぶことで、自分自身について理解を深めるという具合に、ソングライティングを通じて私は自分の世界観を形成し、人間として成長できたんじゃないかと思ってる。 ―現在ヒット中の『Whirlwind』では、いつになく多忙な中で制作したため、「量より質」を念頭にソングライティングに取り組んだそうですね。多数の候補を用意してそこから選ぶのではなく、最初から的を絞って曲を作るという形式で。 レイニー:ええ。今回は全曲自分の体験に根差していて、ツアー中に書いた曲が多いのかな。慣れた環境から切り離されることで緊張感が得られるし、目に入る風景が日々違うと新鮮な視点で物事を見ることができる。それがアルバムから分かるんじゃないかな。とにかく『Bell Bottom Country』をリリースしてからの2年間に私の人生は一変してしまって、クレイジーだったとしか言いようがないし(笑)、吹き飛ばされないよう片足だけ必死に地面に付けていたようなもの。だから、できるだけ早く曲作りを始めて自分の軸を取り戻さなければって思ってた。本当に大切なことは何なのか、忘れないようにするためにも。そういう意味で、文字通りに“whirlwind(つむじ風)”にさらされる中、このアルバムを作ることで心に平穏がもたらされた気がする。 ―本作はいつになく優しいラヴソングが多いことでも注目を集めていますが、全編を通じて、自由でありたいという願望と、愛する人と静かに暮らしたいという願望、ふたつの想いがせめぎあっているアルバムでもありますよね。 レイニー:ええ。ありがたいことに、私はここにきて自分を理解してくれる素晴らしいパートナーと出会えたから。彼は、私がアーティストとして常に自由でありたいと願っていて、時には羽目を外したりもする人間だと知っていて、そういう生き方を尊重してくれる。と同時に、家でゆっくり過ごして、パートナーと食事を楽しんだり、トラックでドライヴに行ったりする時間にもすごく思い入れがあるし、恋人として、娘として、友達としてのレイニーであることも今の自分には大切だから、まさに両方のバランスを模索しているわけ。 ―そういう今のあなたを的確に表している歌詞を『Whirlwind』から選ぶとすると? レイニー:表題曲の“I was one set of tracks, a million miles an hour/But two palominos is more horsepower(私は1本の線路を毎時100万マイルで走っていた/でも2頭の馬で駆ければ馬力はもっと増す)”という箇所かな。すごく気に入っていて、人生を分かち合える人と出会った私が、その人と一緒に歩みながらも、自分の夢を追い続けることは可能なんだと歌ってる。自分がやりたいことをやりつつ、ちゃんと帰るべき場所があって、そこで誰かが待ってくれていて、そして互いに高め合うこともできるのだ、と。 ―現在進行中のツアーの名前にもなった「Country’s Cool Again」も興味深い曲で、カントリー・ミュージックの人気復活について歌っていますね。“誰もがカウボーイになりたがってる”と。 レイニー:あの曲に関してはおかしい話があって、書いた時は音楽のことは全然頭になくて、ライフスタイルについて考えてた。そう、私が子ども時代に送っていたような、馬に乗ったり、カウボーイ・ハットをかぶったり、ラングラーのデニムを履いたりっていう田舎のライフスタイルに魅力を感じる人が増えていて、すごく面白いなあって思って。でも、アルバムのリリースが近付くにつれて、たまたまジャンルが異なるアーティストたちがこぞってカントリーに接近し始めたってわけ。私に言わせれば、それは最高の賛辞。最初に言ったように、カントリー・ミュージックは単なるジャンルではなくて生き方そのものであり、こんなにも大勢の人がカントリーに惹かれているんだと思うと誇らしい気持ちになる。そして彼らが自分のファンにカントリーの魅力を伝えてくれていることにも感謝せずにいられない。それがカントリーだってことを知らずにいつの間にか好きになっていて、気付いた時には手遅れ!っていうケースもあるかもしれないし(笑)。実際、まさか自分がカントリーを聞くことになるとは夢にも思っていなかった大勢の人が今はカントリーを聞いていて、本当にエキサイティングなことだと思う。 ―最後に、あなたがアーティストとして最も重視している価値観を教えて下さい。 レイニー:そうだな……例えば、自分がその時々に向き合っている試練について曲を書く時、私の場合、その辛さではなく克服する過程を強調する傾向がある。つまり、痛みや苦しみは永遠には続かないし、必ず救いは訪れるんだというメッセージを込めているんだけど、それもやっぱり、私がそういう風に教えられて育ったから。幼い頃から馬に乗っていたんだけど、何度も落馬して、その度に起き上がってまた乗って……みたいなことを繰り返してきたし。だから多分、ハードワークを厭わないこと、試練は克服できると信じること、自分を偽らないこと、自分に誇りを持つこと、自分をユニークにしている部分を尊重すること……そういったことを常に意識して曲を書いているんだと思う。
Hiroko Shintani