不覚にも組織で再生産される「老害」の“怖い”実態 出る杭を「打つ」老害はあちこちで起きている
■診断の結果は? たとえば、自分と相手には年齢差があるとします。そのことを強調するために、また年長者である自分のほうが存在価値の高い人間だと主張するために、「老害」を浴びせかけます。 過去の経験を誇らしく語り、知識を披露し、栄光を自慢する。特に、最近能力を出し始めている人に向けて行います。それは、老いゆく自分自身を防衛し自己肯定するための「自衛行為」でもあります。 このような「老害」は自分脳に由来する「左脳老害」と言えるでしょう。こういったシーンがどこでも起きていることを、少し深刻に考える必要もあります。
■学問や研究、医療の世界でも起きている「老害」 会社のささやかな人間関係だけではありません。同じことは、たとえば私が可能なかぎり距離を置いてきた日本の学問や研究、医療の世界でも起きています。 特定の個人を指して批判するつもりはありません。ただ、国内で学術的に名を知られている先生、いわゆる「その道の権威」がそうした考え方を持っていたとしたら、どうでしょうか? 果たして自由で革新的な学問の発展を助けるでしょうか?
私は以前、とある日本の中で高名な先生が、公の場で「結局、出る杭は打たれるのだ」うんぬんと発言しているのを聞いてしまい、思わず耳を疑いたくなったことがあります。 その学界の権威の発言です。私には、「オレの周りで『出る杭』を見つけたら、容赦なく打っていくからな!」という意味にしか読み取れませんでした。 恐らくその先生は、まさかご自身が「老害脳」化しているだなんて考えてもいないでしょう。何せ日本の権威なのです。周辺からは尊敬を集め、あるいは政治力を恐れられています。念のため申し上げておけば、かつて立派な業績ももちろん修められています。
きっとご本人は、「功成り名を遂げ、後輩の模範にならなければならない自分こそが、率先垂範(そっせんすいはん)してみんなを厳しく鍛えてやらなきゃいけない」というくらいのマインドなのでしょう。 しかしその陰で、もしもこれまでの学説を大きく変えるような発見をした研究者が出てきたら、果たして先生は権威として何を率先垂範するのか、私は考え込んでしまいます。 もちろん、国際舞台では、このような無自覚な「老害」が生存できるチャンスは限りなく乏しいと言えるでしょう。学問よりも、研究よりも、自分の経歴や立場を優先して「出る杭」を打ち、しかもその自覚すらない……としたら、日本の「老害」の根は非常に深いことになります。
加藤 俊徳 :医学博士/「脳の学校」代表