メディア回顧 ファクトチェックの難しさ浮き彫りにした選挙 ドラマ原作改変問題も
まもなく暮れる令和6年。メディア界では、元日の能登半島地震で災害時にどんな役割を果たせるかが試され、ドラマ原作者の死がテレビ局の番組制作体制を厳しく問い、NHKでは国際放送で前代未聞の放送事故が起きた。そして終盤に話題を集めたのは、兵庫県知事選で交流サイト(SNS)を中心に飛び交った情報の「ファクト」の問題だ。いくつかの断面から、今年のメディア界を振り返る。 【写真】斎藤氏「ずっと一人ぼっち」雨中の演説で本音ポツリ ■「分からない」も伝えて 選挙報道でファクトの確認が重要なことは論をまたない。個人が発信するSNSでも、例えばX(旧ツイッター)では、投稿内容に誤解を招く可能性がある場合、他者が背景情報を追加できるコミュニティノート機能がある。しかし、法政大の藤代裕之教授(ソーシャルメディア論)は「選挙は昔から怪文書が飛び交うなど、〝疑惑〟が生まれがちだ。そもそもファクトチェックが難しかったり、十分に機能しなかったりする題材がある」と指摘する。 斎藤元彦知事が再選された11月の兵庫県知事選では、斎藤氏の支援者らがSNSを駆使し、パワハラなどで告発され失職した斎藤氏を「疑惑を捏造された」「テレビや新聞など既存メディアの被害者」と擁護し支持層を拡大した。 「今回のケースだと、告発内容を審議する兵庫県議会の百条委員会の調査結果が出ていないにもかかわらず、告発の真偽が重要な争点になってしまった」と藤代氏。選挙後、斎藤氏を応援した「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏は「斎藤さんはパワハラしてました」などと選挙中の発言を撤回した。一方、兵庫県は今月11日、「パワハラと認められる確証までは得られなかった」と発表、虚実がいまだ混沌としている。 藤代氏はテレビや新聞に対し、「既存メディアは『まだ分からない』という情報も含めて、有権者にもっと多くのニュースを提供すべきだった」と話す。 ■自主規制で報道不足か 藤代氏が選挙告示後のネット上の大手メディアのニュースを調査したところ、候補者インタビューなど有権者の知りたい記事が十分ではなかったという。記事の本数を能登半島地震と比較すると2割に満たず、「そもそも報道の絶対量が少なかった」と問題視する。 テレビ局も同じ問題意識を持っており、フジテレビの小林毅専務は同局の定例記者会見で「選挙期間に入り報道の情報量が減ったところでSNSの情報量が増えた。選挙期間中の報道のあり方は考えなければならない」と述べた。