出世競争をする二人の同僚の行く末は? ビジネスシーンに見るゲーム理論
「ゲーム理論」とは、複数の人や団体が互いに影響を及ぼし合いながら、いかに意思決定を行うかを分析する理論のこと。もともとは数学理論として生まれましたが、現在はビジネスシーンでも広く応用されています。競争のある環境下で「有利な立場に立ちたい」という人の欲求に基づき、人と人との駆け引きについて数学的に分析します。企業では取引交渉や競合分析など、相手の行動を予測した上で自らの戦略を最適化するのに有効な理論です。
ビジネスシーンに見るゲーム理論
ゲーム理論の発展は、経済学に革新をもたらしました。 1944年、数学者のジョン・フォン・ノイマン氏と、経済学者のオスカー・モルゲンシュテルン氏が共著『ゲームの理論と経済行動』を発表し、企業や消費者といった経済プレーヤーが競争の中でどのように意思決定するかを数理的に分析する道を開きました。 それまでの経済学では、個々のプレーヤーは「自分の利益を最大化する行動をとる」という前提に基づいていました。しかし現実世界では、人は相互に影響を及ぼしあいながら行動を変えます。例えば、企業が商品の価格を決める際は必ず競合他社の価格を確認します。検討した結果、自社の利益が多少減ることになったとしても、競合他社との競争に“勝てる”価格を設定することは往々にしてあるでしょう。このように、他者の行動を予測しながら意思決定することの複雑さを考慮に入れ、モデル化したものがゲーム理論です。 ゲーム理論で有名な例は「囚人のジレンマ」。二人の囚人が協力するか、裏切るかを選ぶシーンを描いたものです。二人の容疑者が犯罪の容疑で捕まりますが、警察は証拠が不十分。警察は別々に取り調べを受けている二人に「自白すれば刑を軽くする」と持ちかけます。囚人には次のような選択肢があります。 (1) 二人とも黙秘:二人とも軽い罪でそれぞれ2年の刑 (2) 一方が自白し、もう一方が黙秘:自白したほうはすぐ釈放され、黙秘したほうは10年の刑 (3) 二人とも自白:二人とも5年の刑 囚人は、相手がどうするか分からない状況です。相手が黙秘するなら、自分が自白すれば釈放されます。しかし、相手も同じことを考えているかもしれません。両方が自白すると、二人とも5年の刑を受けることになります。 理想は、二人とも黙秘し互いに2年の刑で済ませること。しかし、お互いがお互いを裏切ることを恐れてどちらも自白してしまい、最も損な結果(どちらも5年の刑)になってしまうことが多いのです。これが、「囚人のジレンマ」です。個々が自分の利益を優先して動くことで、全体の結果が悪くなってしまうことを示した教訓です。 ゲーム理論は会社生活にも展開できます。例えば、同じチームのAさんとBさんが、どちらも管理職ポジションを狙っているとします。一つしかない椅子を勝ち取るために、アピール合戦を繰り広げる両者。信頼しあい、尊重しながら競うことができれば、チームとしての成果が上がり両者とも評価が上がるでしょう。しかし、互いが足を引っ張り合えば、チームのパフォーマンスは下がり、AさんもBさんも昇進から遠のく結果に終わるかもしれません。 ゲーム理論の最大の利点は、相手の行動を予測し、自分にとって最適な戦略を見つけるためのシミュレーションができること。複雑な数理モデルに基づいているため、誰もが気軽に使えるツールではありませんが、ゲーム理論の基本的な考え方を理解することは、競争の激しい現代を生き抜く上で強力な武器となるでしょう。