J2東京ヴェルディ復活へ、永井秀樹・新監督が発揮している異能な才能
パスやクロスの供給役は左右のサイドバックか、あるいは3バックの場合は左右のウイングバックが務める。3人の前線トリオ全員にストライカーの意識を強くもってほしいからこそ、今夏にラチャブリーFC(タイ)から加入し、3トップの左としてデビューした鹿児島戦で中途半端なプレーに終始した元韓国代表のカン・スイル(32)には、ハーフタイムにあえて厳しい言葉をかけた。 後半34分から3トップの右として4試合ぶりにリーグ戦のピッチに立ち、6分後には1点差に追い上げるFWレアンドロ(34)のゴールをアシスト。アディショナルタイムには一時は逆転となるゴールをねじ込んだMF河野広貴(29)は、新指揮官が掲げる戦術に手応えを感じている一人だ。 「いままでやったことのないような戦術なので、最初はちょっと難しかったけど、だんだん理解ができてきて、いまでは面白いサッカーだと思ってプレーしている。ボールを回すこと自体はみんな上手いんだけど、何試合か外から見ていて、この部分が足りないところだと僕自身も思っていたので」 この部分とは、要は3トップの左右がより積極的にゴールに絡んでいくプレーに他ならない。ロングボールを多用した前任者のもとで影を潜め気味だったヴェルディ伝統の「上手さ」に、相手を畏怖させる「怖さ」を融合させる改革がいま、急ピッチで進められている。 新キャプテンを拝命したばかりの藤本が、開始12分で負傷交代。ユース時代からの愛弟子で、最終ラインの一角や中盤の底で重用され始めていた山本も左ひざを痛め、河野との交代でベンチへ下がった。 「自分がやりたいサッカー、目指すサッカーは決まっているので。綺麗ごとになるかもしれないけど、自分は誰が出ても同じパフォーマンスができるように、こだわりというものを追求していきたい」 藤本の交代後は、5人の副キャプテンのなかで井上にキャプテンマークが託された。緊急事態に見舞われても、チームをけん引するメンタル面で、何よりも戦術面でぶれることはない。 次節で3分の2を終えるJ2戦線。J1参入プレーオフ圏内の6位まで勝ち点8ポイント差の13位で何とか踏ん張りながら、クラブ創立50周年を迎えているヴェルディは逆襲への牙を静かに、そして確実に研いでいく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)