サニブラウンはなぜ育ったか 課題より伸ばした個性 元J戦士が〝スルーパス〟【アビスパ福岡アカデミー密着①】
J1アビスパ福岡は8月26日、U―18(18歳以下)のFWサニブラウン・ハナン(18)とFW前田一翔(18)を来季トップチームに昇格させると発表した。特に陸上短距離で2大会連続五輪に出場したサニブラウン・ハキームの弟、ハナンの昇格は大きな話題になった。昨季までU―18でレギュラーですらなかったハナンが、なぜプロになれたのか。アカデミー(育成組織)に密着し、急成長の理由に迫った。(末継智章) ■「かわいいいいいいいいいいい」公式チアのポニテ姿【実際の投稿】 ◆ ◆ 8月26日に福岡市の雁の巣球技場で行われたトップチーム昇格会見。柳田伸明強化部長は、ハナンと前田を「決してエリートではない」と強調した。ともに高校から福岡のアカデミーに入り、年代別代表の経験はない。ハナンに至っては今年になってようやくスタメンに定着したばかりだ。 ハナンは運動量も足元の技術も同年代の選手と比べて劣っていたが、相手DFの裏に飛び出す瞬発力は前田とともに光っていた。アビスパや横浜M、大宮で計14年間攻撃的MFとしてプレーし、昨年からU―18で指導する久永辰徳監督は「弱点に目が行きがちになるが、クラブとして長所にどうやって目を向け、引き出すか考えた」と振り返る。 長所を伸ばした練習の一つに、久永監督からのパス供給があった。ゲーム形式の練習中。ピッチの外にボールが出た瞬間、スローインで再開するのではなく、久永監督がハナンや前田にパス。瞬時に攻守を切り替え、DFの裏を狙う癖を習慣づける狙いがあった。 前田は「相手よりも早く動き出せるようになった」と感謝。ハナンは「切り替えやゴール前に詰めるところは結構教えてもらうことが多かった。長所を生かすためには何度も走らないといけないので、スタミナをつけないといけない」と思い、自主練習で砂浜を走り込むなどして課題の体力もつけた。今年7月の日本クラブユース選手権では前田は3得点、ハナンも2得点。6年ぶりに4強入りしたチームの2トップとして輝きを放った。 練習メニューは単なる思いつきではない。「IDP(Individual Development Plan)」と呼ばれる個性に特化し、個別に育成する計画に基づき、アカデミースタッフ間で情報を共有した上で実践した。IDPを重んじる理由―。それは「再び冨安健洋を育てたい」というJリーグとアビスパの願いが一致したからだった。(②につづく)