哲学者が問う、定年後の「成果を上げない人生」に価値はないと言えるのか?
老後のつながりの強制
しかし、そのように思えず、老後、あるいは定年後も何かをしなければならない、人とつながり、そのためには趣味を持った方がいいと考える人は多い。そのような生き方を否定しようとは思わないが、人とのつながりはあった方がいいと勧められるようなことがあれば、これもつながりの強制である。 地域のコミュニティに入ってみても、もはや肩書がまったく意味を持たないことに馴染めず浮いてしまう。仕事を辞めたからといって、必ず人とのつながりの中に入っていく必要はない。 一度、つながりから解き放たれ、競争や評価から自由になって、ゆっくりどう生きていくかを考えるといい。 私の高校生の時の倫理社会の先生が、仕事を辞めたら、若い時に買いためた本を読むといっていたことをよく覚えている。残念ながら、先生は定年を迎える前に亡くなったので、このような老後を送ることはできなかったのだが。 仕事を辞める前にも2つのことができる。まず、仕事を辞める前でも、現実的には時間などの制約はあるだろうが、やってみたいことがあればためらわずに手がけることである。人とつながるためではない、純粋に好奇心から始めたことがあれば定年を迎えることが不安ではなくなる。 次に、人間の価値は生産性や経済的有用性にあるのではないと知ることである。病気になれば否が応でも考えないわけにはいかないが、病気にならなくても、常識とは違う考え方があることを知っているだけで人生は違ったものになるだろう。
岸見一郎(哲学者)