「日本では稼げない、相手もいない」看護師ボクサー30歳でプロ転向の舞台裏…古びたジムで“昭和の名ボクサー”と目指す10億円のファイトマネー
国内に相手がいない…女子ボクシングの現実
24年5月にC級プロライセンスを取得し、同年12月にフルマークの判定勝ちでプロキャリアをスタートしたばかり。ここからは、茨の道が待っている。競技力の向上はもちろんのこと、女子中量級のマッチメークは簡単ではない。日本女子のスーパーライト級(63.5kg以下)は、津端ひとり。試合をするためには対戦相手を海外から日本に連れてくるか、自らが海を渡るしかないのだ。 後楽園ホールでのデビュー戦も、興行主にタイから選手を呼び寄せてもらった。自ら100枚ほどのチケットをさばいても、手元に残るのはファイトマネーを含めて20万円程度。対戦相手の交通費を含めた諸経費の半分は自分のスポンサーに負担してもらい、残りは手売りしたチケットの売り上げを充てた。自己負担も多く、当面ボクシングだけで生計を立てるのは難しいだろう。 行く先には厳しい現実が見えているものの、津端はすべての事情を理解した上でのチャレンジだという。非常勤の看護師とスポンサーの支援で何とか生計を立てており、むしろ、あっけらかんとしている。 「“何とかなる”でやっています。覚悟を決めて、プロになっているので。もちろん、もっとスポンサーを探さないといけないと思っていますが、『一生懸命頑張っている人、必要としているところにお金は来る』と誰かが言っていましたから」 どこまでも、前向きである。楽観的な性格は、幼少期から培われてきたもの。3歳の頃に両親が離婚し、男手ひとつで4人の子どもを明るく育ててきた父親の影響は大きいという。南太平洋諸島のフランス領タヒチで生まれた母の血も引き、「ハーフでマイナスのことはひとつもなかった」とニコッと笑う。 「子どもの頃から周りのみんなより体は大きかったですし、パワーもありました。タヒチの血はボクシングにも生きています。日焼け止めも全然、塗らなくて大丈夫。日本の友人には『シミになるから肌のお手入れは大事』と言われますけど、『タヒチは太陽と友達だから、肌も強い』と思っています」 明るい未来を信じる31歳は、笑顔を絶やすことはない。日本女子プロボクシングの実情を直視しながらも、高い壁を乗り越えた先の舞台も想像する。試合を重ねて世界ランキングに入り、大和田トレーナーとともに本場アメリカのリングで戦うことは目標の一つ。女子でも中量級のマーケットは大きい。スーパーライト級4団体統一王者のケイティー・テイラー(アイルランド)は、女子史上最高となる610万ドル(約9億6000万円)のファイトマネーを稼ぎ出すのだ。 「夢がありますよね。田島会長には『大きなお金を稼いだら、多寿満ジムをきれいにしましょう』と言っているんです(笑)。現役はそこまで長くできないと思うので、35歳までに世界のベルトを巻きたいです」 世界一の看護師ボクサーを目指し、きょうも“揺れるジム”で熱のこもったパンチを打ち込んでいる。いまのところ、チャンピオンになっても、誇りを持つ仕事を辞めるつもりはない。 〈前編から続く〉
(「ボクシングPRESS」杉園昌之 = 文)
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