「日本では稼げない、相手もいない」看護師ボクサー30歳でプロ転向の舞台裏…古びたジムで“昭和の名ボクサー”と目指す10億円のファイトマネー
「今度、ミットを持たせてよ」
多寿満ジムに通い始めて、まだ間もない頃だった。新しい環境に慣れない津端が一人で練習していると、大和田トレーナーにふいに話し掛けられた。 「『今度、ミットを持たせてよ』と言ってもらったんです。私から『教えてください』と言いづらくて。でも、それ以降は毎週のように持ってもらうようになりました」 大和田は今も昔もメッキ工の仕事を続けており、ジムに顔を出せるのは金曜日、土曜日の週2回のみ。それでも、津端は顔を綻ばせる。まずシャドーの動きを見てもらい、その後にミット打ちが始まるという。時折、大和田の「そんなんじゃダメだ」という大きな声も飛び、ジム内にはピリッとした空気が漂う。1日2時間の練習は充実しているようだ。 「金曜日、土曜日は心臓が止まりそうになるくらいしんどいです。大和田さんのミットは、強度が高くて。できることなら週5回、持ってほしいのですが、週2回でもうれしいです」 津端にとって、大和田トレーナーのアドバイスはどれもこれも新鮮だった。スタンス、重心、足の動かし方など、丁寧な指導を受けている。力み過ぎていた点も指摘され、無駄な力を使わずに打てるようになった。「アリサはパンチがあるんだから、強く打たなくても相手は倒れるから。チョンでいいんだよ」と助言され、パンチスピードも上がった。細かい技術的な指導を挙げれば切りがない。 「良い意味で自信を持って、ボクシングできるようになってきました。私はただただ勝ちたいんです。勝って、自信をつけたい。だから、その日持っている力をすべて出します。強くなるための過程を大事にしないと」 63歳の大和田トレーナーも、その思いをしっかり受け止めている。平日は毎朝4時に起床し、仕事に精を出すが、週末はジムで必死に取り組む津端と真剣に向き合う。ミット越しに熱を帯びた拳の重みを感じていた。 「ひしひしと伝わってくるんですよ。一番の伸びしろは、ファイティングスピリッツ。彼女の熱意に心を動かされました。こっちも、選手の気持ちに応えないといけないなって。教わる側と教える側の思いが一致しないと、プロのリングでは勝てませんから。こんな思いになるのは、何十年ぶりだろう」 遠くを見るような目で昔の自分とイメージを重ねていた。 「『そんなんじゃダメだ』と言うと、負けじと俺のミットに向かってくるんですよ。そのとき、赤井戦前の練習を思い出してね。自分もそうだったなと。当時のトレーナーも、今の俺と同じ気持ちだったのかなって」 津端は30歳でプロ転向を決意したときに心に誓った。 「『世界チャンピオンになる』って。周りにもそう言っているので、嘘はつきたくないんです。いい意味でがむしゃらに取り組んでいた20代。いまは頭がクリアになり、体も動いています。自分自身、まだ伸びると思っています」
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