穴あきイヤホンを再起動させたソニーの目論見は?【道越一郎のカットエッジ】
「ながら聞きイヤホン」ブームの火付け役ともいえる製品が、ソニーの「穴あきイヤホン」初代のLinkBudsだ。2022年発売の完全ワイヤレスイヤホンで、イヤホン本体に穴が開いている独特のデザインが大いに注目を集めた。耳に入れるユニットに穴をあけることで、外の音がスース―入る仕組み。物理的に自然な外音取り込みモードを備えた製品だ。しかし穴あきタイプは初代のみ。後継モデルは普通のカナル型完全ワイヤレスイヤホンのような形状に戻ってしまった。やっぱりうまくいかずに一発芸で終わったのか……。そう思っていたのだが、このたび、ついに穴あきイヤホンの後継機が満を持して登場した。LinkBuds Openだ。 ソニーマーケティング モバイルエンタテインメントプロダクツビジネス部の大北大介 統括部長は、「そもそもLinkBudsのコンセプトは、日常生活の中でシームレスに音楽を楽しむというもので、穴あきイヤホンありき、ということではない」と話す。なるほど。穴が開いていたのは、日常と音楽をリンクさせるための一手段だったわけだ。昨今、あまたある完全ワイヤレスイヤホンは耳栓タイプのカナル式が目立つ。ノイズキャンセル機能と外音取り込み機能を搭載するものも多い。音楽に集中したいとき、周囲の音を遮断したいときにはノイズキャンセル機能は大活躍だ。しかし、外の音が聞こえないと不便だったり危険だったりすることもある。そのための外音取り込み機能だ。しかし、その存在意義は結構中途半端。外音取り込みで聞く外の音はとても不自然で、お世辞にも快適とは言えない。「外の音を聴きたいときや会話をする時にはイヤホン外せばいいじゃん」と思ったりもする。 そこで一つのカテゴリーを形成しつつあるのが、自然に外の音が聞こえるイヤホンだ。耳に引っ掛けるだけのクリップタイプや、骨伝導で耳をふさがないタイプのイヤホン。その先兵ともいうべき存在が穴あきタイプの初代LinkBudsだった。形状からして「ああ。音が素通しなのね」とわかるデザインの勝利。ただ、この形状を実現するために、結構無理をしたのではないかと想像する。初代LinkBudsは、いわゆるオープン型イヤホンの典型のような音で、低音が貧弱で音楽を楽しむにはかなり物足りなかった。対して、初代登場から2年半の時を経て登場した後継モデルのLinkBuds Open。新たに開発したリング型ドライバーで、ずいぶん低音が豊かになった。周囲の音と一緒に音楽を聴くというスタイルなら、これぐらいでちょうどいい。新作登場まで時間がかかったのは、このドライバー開発のためだったのかもしれない。 ソニーの調査によると、LinkBuds Openのように自然に外音が聴こえる、いわゆる「オープンイヤー型」の完全ワイヤレスイヤホンの用途で、最も多かったのが「仕事用」。用途のおよそ59%だったという。オンライン会議などで利用されているのは理解できるが、それだけのために使っているわけでなく、普段も使われているようだ。オンライン会議以外で、職場でイヤホンをつけて音楽を聴きながら仕事? 昭和世代にはちょっと考えられない光景だ。オープンイヤー型は「上司からの呼びかけにもすぐ応えられる」ので選ばれているとも。カフェに入る時にイヤホンを外さず、音楽を聴きつつ店員と会話したりすることも珍しくなくなってきた。ただ、自分も含め、そこまで横着していいものだろうかとも思う。会話するたびにイヤホンを外して、会話が終わればまたつけるというのは確かに面倒ではあるが、やっぱり相手に失礼だよなぁ。そう思うのが古いのかなぁ。 今回ソニーは、LinkBudsシリーズでなんとスピーカーもリリースした。「え? Buds って蕾とかの意味で、耳栓みたいなイヤホンの形状を表すものだとばかり思ってたんだけど……」と少々混乱してしまった。しかし、大北 統括部長の言う通り、いろんな場面で連続的に音楽を楽しむ環境をつくる、というコンセプトであれば納得できる。しかもこのスピーカー、イヤホンと連動させて、家に帰ってイヤホンをケースにしまうと、音楽の続きがスピーカーから流れるように仕込むことができる。イヤホンからスピーカーに切り替わるまではちょっと待たされるが、なかなか面白い発想だ。いいぞ。もっとやれ。ソニーには、昭和世代を置いてけぼりにする新しい発想で、時代の流れを先導するような新しい音楽の楽しみ方をどんどん提案し続けてほしい。(BCN・道越一郎)