アメリカの象徴USスチールの買収を目指す日本製鉄、2兆円に上る巨額取引の成否の鍵は? 「外資」の買収に揺れる鉄鋼の街ピッツバーグを歩いた
今回の買収案件の発端はUSスチールが昨年8月、身売りを含めた「戦略的選択肢」を検討していると表明したことにさかのぼる。かつては世界最大級だったUSスチールは海外勢との競争にさらされ、米国内の生産量は1950年代の約3500万トンをピークに、2022年には1000万トン台にまで落ち込んだ。最盛期に30万人を超えていた従業員数は1万人超にまで減少した。2022年の世界の鉄鋼企業ランキングでは27位に沈んだ。日本製鉄は4位だ。 USスチールとともに地域経済も衰退し、ペンシルベニアはアメリカでラストベルト(さびた工業地帯)の代表州として語られる。もっともピッツバーグは鉄鋼業に依存していた産業構造から転換し、コンピューターやソフトウエアなどのハイテク産業への移行に成功。情報工学で国際的に有名なカーネギーメロン大学のほか、デュケイン大学などが立ち並ぶ学術都市として活気を取り戻している。 ▽日本製鉄の約束
ピッツバーグからレンタカーを走らせ、ブラドックという地域に向かった。車で30分足らずの郊外に、1870年代から稼働するUSスチールのエドガー・トムソン製鉄所がある。小雨のせいもあるだろうか、人けがあまりない。周りには廃虚も目立つ。 製鉄所の近くで生まれ育ったという女性に話を聞けた。デリア・レノンさん(69)は「日本製鉄が約束を守ってくれるなら賛成だ」と語った。「買収で、USスチールの財務や技術力が向上して、製鉄所周辺のインフラや環境が改善するなら地域が潤う」。 地元の役所に務めるルー・ランソムさん(44)は「みんな『買収』という言葉を否定的にとらえすぎている。日本製鉄が約束したことを守ってくれれば、USスチールにも地域にも良い結果になる」と期待感を口にした。 日本製鉄は昨年12月に発表した買収案で、USスチールの当時の株価を大幅に上回る価格を提示した。総額は141億ドル(約2兆1千億円)に上る。同様にUSスチールの買収に意欲を示していた米中西部オハイオ州に拠点を置く鉄鋼大手クリーブランド・クリフスが提示した額の2倍だった。