鯖江で「小さな産業革命」、インタウンデザイナー新山直広に聞く地場産業の継続と価値創出に必要なこと
オープンファクトリーイベント「RENEW」を始動、小さな産業革命が起きる
WWD:鯖江の産業の中でもWWDJAPAN読者になじみがあるのは眼鏡産業。現在の課題は何か、また課題に対する取り組みで評価できるものは何が?
新山:現在の課題は大M&A時代に入ったこと。それ以前の課題はOEM中心のビジネスだったため、受注が減ったことで仕事がどんどんなくなり、どうするんだと自社ブランドを作る動きが生まれ始めていた。そのときに立ち上げたのが「RENEW」だ。
WWD:今年で10年になる。成果は?
新山:OEMを生業の中心としていた町に35の新規店舗ができた。工場の一部を自社ブランドを売る店にしたファクトリーショップのような形態。大げさかもしれないが「RENEW」によって小さな産業革命が起きた。意識変化が起き、新しい稼ぎ口を見出した事業者は多かった。
WWD:鯖江の眼鏡は分業制で、自社ブランドのためのサプライチェーン作りが大変そうだ。リードタイムが長くなっていることが課題だとも聞く。
新山:分業とはいえ、メーカーは他の工程を依頼して取りまとめることで売ることができる。どちらかというと今の課題はリードタイムが長過ぎること。15~21年はリードタイムが3~5か月だったのに対して一時期は1年3か月まで伸びた。今は1年程度だが、あまりに伸びると資金繰りやキャッシュフローが難しくなる。分業制を売りにしていた町だが、どこかの工程が止まればサプライチェーンが崩壊し、最終製品まで至らない。漁業でいうところの乱獲した結果、魚がいなくなったのに近く、課題はわかっていたのに手を付けなかったともいえる。人材は育たないし、結果的に作れない産地になった。
WWD:別の課題も生まれ、厳しい状況は続いているが、いい形で産業を継続させるためにはどこを目指せばいいのか。
新山:今僕が期待しているのは3代目社長。ちょうど2代目から3代目への代替わりの時期で、3代目の多くは40代。2代目は家族経営が中心で家族が食べていければいい、という感じだったが、3代目の経営者は共存共栄の視点を持っている。自分たちが儲かればいい、ではなく、産地の生態系まで考えた経営しようとしている方々がいる。例えば佐々木セルロイド(母体は兵庫県の企業)は独立支援コースができ、独立前提の雇用計画を進めている。何年か働いた後に独立されると会社としては大変になるかもしれないけど、産地にとっては作り手が増えるのでよしとしている。