鯖江で「小さな産業革命」、インタウンデザイナー新山直広に聞く地場産業の継続と価値創出に必要なこと
新山:2つある。1つ目は自社ブランドを作り運営することでノウハウを貯めてフィードバックするため。2つ目は請負仕事だけではなく、自分たちで企画し土地の技術を生かした製品作りをすることは産地貢献の一つだと考えているため。「頼まれないとできない」というデザイナーの職能を幻想だと思っている。リアクションだけではなく、アクションをすることも大切だ。デザインの仕事を請け負ったときにボツになったネタをやらせてほしい、と自社ブランドとして始めたケースもある。
WWD:改めて“インタウンデザイナー”であることの重要性、意義とは何か?日本の地場産業を維持し成長するために必要な点とは?
新山:日本にデザイナーは約20万人いるが、その多くが東京に集中している。消費地としてデザインが求められることはわかるが、生産する町だからこそできるデザインが地域には絶対ある。本質を見つけ出し、地域資源を結びつけて新しい価値を作る“インタウンデザイナー”が増えると国が良くなるんじゃないかと思っている。国力、上がるんじゃね?と。そういう人を増やしたい。例えば漁業の町だったら漁業的視点の“インタウンデザイナー”が生まれるはずだと考えている。僕はモノ作りの町の“インタウンデザイナー”の一つのモデルを作る。
WWD:“インタウンデザイナー”のやりがいは?
新山:消費されるものではなく、長く続ける生態系を作ることができる。それが地域の良さ。春夏、秋冬といった時間軸ではない。そもそも商品開発が全てではなく、町医者のような感覚を持っている。「おなかが痛い」と来た人の話を聞いて、「原因は別にあるんじゃない?」と診断することもある。つまりアウトプットは製品のデザインでなく、労務にもなりえる、ということ。僕らの町は経営者と話せるし、意思決定が早い。二人三脚で事業を成長させる素地は十分にある。生産地でやれる醍醐味は物事の本質――そもそもやる意味があるのかーーから関わることができる、という点において意義がある仕事だと思う。