年末年始を「京都」で“暮らすように”過ごせる5つのキーワード【京歩きの達人が伝授】
● 京都で年越しそばを味わう 年越しそばを食べる風習は全国各地にありますが、京都らしいのは「にしんそば」でしょうか。昆布だしに薄口醤油で味を調えたつゆ、そば、その上に甘辛く炊き甘露煮に仕立てた「身欠きにしん」をのせているのが特徴です。箸を入れると骨までほろほろとくずれるほど柔らかなその身をほぐしながら、おそばに絡めて味わいます。 京の都には海がありません。冷凍保存技術を持たなかった時代には、新鮮な海の幸を新鮮なまま都に運ぶことができませんでした。若狭で水揚げされた鯖(サバ)に塩を振り、野を越え山を越えて都まで運んだ道が「鯖街道」と呼ばれていることは有名です。北海道で水揚げされ、保存のため干物に仕立てられた鰊(ニシン)は、てんびん棒を担いで全国を渡り歩いた近江商人を介して京の都に流通するようになりました。 「総本家にしんそば松葉」(東山区)では、2代目松野与三吉が1861(文久元)年の創業から20年たったころ、そばに身欠きにしんをのせた「にしんそば」を発案したことで、その元祖に。ニシンの卵「数の子」は、子孫繁栄の象徴としておせち料理に欠かせないほど重用されるのに、身の方は骨だらけで食べにくく、魚好きの猫ですらまたいで通るといわれたほど不人気でしたから、まさに京の都の“にしん革命”。存在価値を増した身欠きにしんのおそばは、やがて都中に普及し、広く人々に親しまれるようになりました。 南座の隣にある本店は、大晦日は夜9時半(ラストオーダーは9時)まで営業しています。お店で食べて帰るのが難しければ、味付け済みの身欠きにしんに、つゆとそばのセットが販売されています。つゆを温め、そばを茹で、身欠きにしんをのせれば、老舗の味が簡単に自宅で再現できます。そこに京都の原了郭や七味家の七味をお好みでふりかけると、甘さがキリリと締まって味わいが深まりますよ。
● 新年の幕開けの初詣はどこにするか 大晦日に除夜の鐘を聞いた足でそのまま初詣へ向かい、新年の幕開けを祝いましょう。四条大橋を東に渡り、総本家にしんそば松葉で年越しのにしんそばをいただいて身体を温めてから、知恩院で除夜の鐘を聞き、すぐ南の円山公園で空に瞬く星空を眺めた後、近くの八坂神社へ向かうのがベストコースです。 八坂神社では、大晦日の夜から元日未明にかけて「吉兆縄」と称する火縄に「をけら火」を授かって帰る風習が受け継がれています。をけら火には、魔よけの意味が込められており、火のついた吉兆縄をくるくると回しながら家に持ち帰り、おくどさん(かまど)に火を移します。その火で正月のお雑煮を炊いていただき、新年を祝うことで、向こう一年間の無病息災を願うのです。 とはいえ、をけら火を灯した吉兆縄を持ったままバスやタクシーには乗れませんので、八坂神社から徒歩圏内に自宅のある人でなければ持ち帰るのは困難。キッチン付きのゲストハウスやホテルも、今は防火のためガスコンロではなくIHが主流です。 ということで、火を持ち帰れない人は、をけら火を授かった後に火を消して、吉兆縄だけ持ち帰りましょう。玄関などに置いておけば、魔よけや厄よけのご利益を授かれますよ。 さて、京都での初詣はどこへ参りましょうか。警察庁が15年前に三が日の参拝客数の発表をやめたため、最近の人数は不明ですが、参拝客が多いと思われる寺社は、伏見稲荷大社(伏見区)を筆頭に、八坂神社(東山区)、北野天満宮(上京区)、松尾大社(西京区)、平安神宮(左京区)、下鴨神社(左京区)などです。 旅行専門サイト「トリップアドバイザー」による「外国人に人気の日本の観光スポット」ランキングで、2014年から5年連続1位に輝いて以降、年間を通してインバウンドの観光客でにぎわうようになりました。京阪本線「伏見稲荷」・JR奈良線「稲荷」駅からすぐというアクセスの便利さもあって、参道も裏参道も大賑わいです。稲荷さんだけあって、ご利益は「商売繁昌」ですから、新しい年の幕開けにはぜひとも手を合わせておきたいところです。第37回でご紹介した、干支の「巳」をまつるお寺や神社と併せて一年間の幸せを願えば、ご利益も倍増しそうですね。