夫婦もいつかは「おひとりさま」。亡くなる寸前まで頭がはっきりしている人は奇跡…。その時のために今備えたいことを司法書士が解説
◆山中さんご自身のこと だからちょっと待って。 80万円を使うためだけに、わざわざ法定後見制度を利用する必要があるのでしょうか? 「別に妻の口座を使わなくても、施設の費用は払っていけます」 山中さんの場合、奥さんは専業主婦で、家庭の経済は全て山中さんのお金で賄ってきています。それならば、「奥さんの使っていない口座にお金が残っていることが気持ち悪い」だけで、そのお金を使わなくても生活に支障はありません。 それよりももっと重要なことは、山中さんご自身のことです。 奥さんがお亡くなりになるまで、山中さん自身が健康で頭もはっきりしているという保証はどこにもありません。 もし山中さんが入院するようになった時、誰が入院手続きをしてくれますか? もはや奥さんを頼ることはできません。 もし山中さんの意思が怪しくなった時、誰が奥さんの施設の費用を払うのですか? 全ての会計を山中さんが担っているのですから、たちまち奥さんの施設はお金が払ってもらえなくなって困ります。
◆お互いにとって不幸なこと もし山中さんが先に亡くなってしまったら、誰が火葬の手続きをしてくれますか? 自分で棺に入ることもできないし、火葬のボタンを押すこともできません。ましてや遺された奥さんが亡くなった時、誰が手続きしてくれるのでしょう。 結婚していると、「相手がしてくれる」と安心してしまいますが、たとえ夫婦であったとしても、片方が認知症になってしまったら、その瞬間から「おひとりさま」です。 夫婦が同時に亡くなることは少ないので、いつかは皆「おひとりさま」になってしまうのです。そのことに気付いていない人が、どれだけ多いことやら……。 「おひとりさま」=結婚していない人ではないのですよ! さらに山中さんご夫婦には、子どもがいません。 長年会ってもいない姪がいるだけです。彼女がどこに住んでいるか、どのような生活をしているかも知りません。 それでも万が一の時には、日本は戸籍制度があるので、姪っ子さんにたどり着くことができます。日本では親族の意思が尊重されるので、その姪っ子さんがいきなり判断していかねばならないことになります。 どこの施設に入所させるのか、医療をどこまで求めるのか、どのような埋葬をするのか等々、姪っ子さんからしても叔父夫婦の意思も分からないまま判断を迫られるのです。そのような状態は、お互いにとって不幸なことと感じてしまうのは、私だけでしょうか。 もちろん亡くなる寸前まで、頭がはっきりしている方もいます。そんな奇跡的な人でも、自分の死後のことはできません。そして当然のことながら、自分で判断できなくなることの方が圧倒的に多いのです。その時のために、備えておきましょう。
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