カマラ・ハリスの素顔。堂々たる風格と「友達になりたい」と思わせる庶民性。ボブ・マーリーと料理好き【アメリカ大統領選】
◆終身大統領を示唆する発言も…… けれども民主党候補を選ぶ予備選の取材で私が危機感を抱いたのは、若い女性たちの態度でした。ヒラリーと激戦を繰り広げていたバーニー・サンダースの支持者には若い男性が多く、しかも女性蔑視の言動がかなり見られたのです。彼らと一緒にいる若い女性たちがたしなめもせず、平然としていたのが私にはショックでした。 当時は、熱狂的なサンダース支持の若い男性や政治活動家でもある女優のスーザン・サランドンの影響を受けて「ヒラリー・クリントンが大統領になっても、ドナルド・トランプが大統領になっても同じ」「私はP****(女性器の呼称)で投票しない(自分が女性だからというだけで女性候補に投票しない)」といった発言をする若い女性も増えていました。 「ヒラリーを応援するのはカッコ悪い」という空気が若い女性の間に蔓延し、当時ヒラリーを支持していた女子大生たちは「(仲間外れになるので)ヒラリー支持を公言できない」と言っていたほどでした。 若い女性のこういった態度は、近い未来に自分の権利が奪われるという危機感がなかったからだと私は思うのです。 ヒラリーの世代の女性たちとは異なり、これらの若い女性は学校で男子と同等に扱われてきました。賃金や昇進といった点ではまだまだ男女の間に大きなギャップがあるのですが、女子大生は社会でそれを経験していません。 「ロー対ウェイド判決」がいかに重要なことだったのかを知らない彼女たちにとっては、女性の権利が剥奪されるのはマーガレット・アトウッドの『侍女の物語』といったディストピア小説の世界でしかありえないことだったのです。
ところが、実際にトランプが大統領に就任したら、偶然も重なって4年間で超保守の判事が3人も任命され、最高裁は6対3で大幅に保守に傾きました。そして「ロー対ウェイド判決」が覆され、20世紀の女性たちが勇敢に闘って得た人工妊娠中絶の権利はあっけなく剥奪されてしまったのです。 人工妊娠中絶を違法にするために共和党を取り込んで闘ってきたのは、アメリカのキリスト教保守の団体です。2024年7月26日、トランプは彼らへのスピーチで「(今回の選挙では)あなたたちは投票に行かないといけないよ。でも、4年後はもう投票しなくてもよくなる。私たちがうまく制度を変えるから、投票する必要がなくなるんだ」と語りました。 これは、自分が再選されたら大統領選挙と憲法による「2期8年」の期限を廃止し、終身大統領として君臨することを示唆する発言でした。 この発言の6日前まで、民主党の候補は現職大統領のバイデンでした。81歳のバイデンの老化が6月のトランプとのテレビ討論で明らかになり、ようやくバイデンは大統領選からの撤退を発表したのでした。 バイデンが撤退しても、副大統領のカマラ・ハリスが自動的に民主党を代表する候補になるという規則はありません。本来ならば民主党の予備選で候補を選ぶところなのですが、本戦が目の前に迫っているので時間がない。 でも、バイデンだけでなく、2020年の予備選の時のハリスのライバルたちも「トランプを再選させてはならぬ」という大きな目標で団結し、民主党の規則である過半数の選挙人を短時間で獲得してハリスが民主党の候補に選ばれました。 これは私にとっても嬉しい出来事でした。というのも、私は5年前、予備選を控えた少数限定の集会で夫と一緒にハリスに会っていたからです。