異彩放つ「早稲田のガウディ」内部の“特濃”な空間。中に進むと不思議なものが出現。90歳の梵寿綱氏に聞いた。
入り口の壁はコンクリート彫刻で、緑や黄色、青、茶色のタイルがあしらわれ、異国の雰囲気が漂う。視線を落とすとタイルの床があり、凸凹してうねっている。 奥へ進むと、鉄の大きな扉があった。ゆっくり押し開けると、さらに細い通路が続き、その先に何かが見えた。 薄暗く静かな空間。天井や壁、足元にはさまざまなエレメントが配置され、中に進むほど装飾の濃度が高くなる。ふと見上げると、天井の不思議な彫刻が目に入る。振り向くと、違った光景が見えてくる。上下・左右・前後から建物が迫ってくる不思議な感覚を抱きながら、秘密の場所へと誘われる。
そこに現れたのは、巨大な「手」の彫刻だ。人が座れるほどの大きさの「手」が上から吊り下げられている。窓や天井にはステンドグラスがはめこまれ、神秘的な雰囲気が広がっている。 このインパクトあふれるドラード和世陀はどのように作られたのか。設計も装飾も計算されたものだと思ったが、梵さんに聞くと意外な答えが返ってきた。 「やろうと思ってやったんじゃなくて、こうなっちゃった。やる羽目になっちゃって、やってみたらこうなった。僕の建築は、“羽目になっちゃった”が多い。面白いよね」(梵さん)
■設計まで進んだところで思わぬ事態 ドラード和世陀は、この土地のオーナーが梵さんを探して依頼した仕事である。上から見ると五角形のいびつな土地に集合住宅を建てることは決まっていたが、直線の壁で柱を建てるのは難しい。そこで当時の建築基準の範囲で、弧を描く壁に柱を連続して入れる構造を考えた。 しかし設計まで進んだところで、思わぬ事態に遭遇する。建設において銀行からの融資を受けられないことが発覚したのだ。紆余曲折の末、なぜか梵さんが分譲マンションの販売に関わり、売り切ることまで課せられてしまった。ちなみに、建設費を含めた事業規模は2億7000万円ほどだったという。
「僕も力を入れていた仕事で、恩義もあった。ただ、売るといっても不動産屋ではないし、宣伝広告費もモデルルームもない。大学近くの人気エリアといえども、高いマンションは売れにくい場所。とにかくイチかバチかでやりました」(梵さん) さらに当初は外壁のコンクリート彫刻を手がける職人がいたというが、その計画は途中で頓挫し、結局梵さんが外壁を作る“羽目”になる。梵さん自身が職人のように、コンクリート彫刻の外壁を作りあげた。