藤井風、稲葉浩志、くるりなどの魅力を再発見…NHKオフィスで演奏する音楽番組を強烈に推す訳
また、それぞれの声や楽器の音が粒立って聴こえてくるので「ごまかし」も難しい。さらには照明がビカビカっと光ったり、花火がドーンと弾けたりなどの「めくらまし」も使えない。 要するに「tiny desk=小さな机」とは、そんな「こけおどし・ごまかし・めくらまし」が一切、利かない空間なのだ。 とどのつまり、試されるのは、メンバー1人ひとりの腕っぷし、声っぷしなのである。 ■先行版で藤井風が見せ付けたもの 今年の3月16日、先立って藤井風の出演する『tiny desk concerts JAPAN』の先行版が放送された。予想されたことではあったが圧巻だった。
歌にキーボードに、藤井風のフィジカルエリートぶりを見せ付けられ、「Yahoo! ニュース エキスパート」というメディアに私はこう書いた。 ――変幻自在のボーカルやバックの優秀な演奏にも目を見張りましたが、個人的には、藤井風がキーボードを操る姿が目にこびり付いて離れません。何というか、鍵盤が両手にまとわり付いている感じがするのです。幼い頃から鍵盤が好きで好きで、弾いて弾いて弾きまくった人だけが出せる味だと思いました。
見せ付けられたのは藤井風の腕っぷし、声っぷし、つまり風っぷし――。 そして『tiny desk concerts JAPAN』は、この秋、レギュラー化され、初回(9月30日)はB'zの稲葉浩志、10月7日はKIRINJI、10月14日が君島大空合奏形態、そして10月28日にくるりと、何とも個性的なラインナップが出演し続けている。 個人的には、稲葉浩志の回が特に強く印象に残った。白状すれば、私はB'zの熱心なリスナーではなかったため、『ultra soul』(2001年)のような、ハードでギンギンなサウンドの中でシャウトする人というイメージが強かった。
しかし、というか、だからこそ、NHKの窮屈なオフィス、こぢんまりとした編成の中で歌われる稲葉浩志のボーカルにシビれたのだ。 我々の多くが聴き馴染んだ「ハードギンギン稲葉浩志」よりも、多くが初めて聴くこととなる「オフィスこぢんまり稲葉浩志」のほうに、彼の底力がくっきり表れた気がしたのである。 そして、10月28日オンエアのくるり回。弦楽四重奏の加わった『ブレーメン』『奇跡』『ばらの花』に、不覚にも涙しそうになった。