世界の終末時計は「残り90秒」 ウクライナやガザだけでない“終末”の条件をマルクス研究者が語る
ウクライナやガザで続く戦闘。その背景には「西欧」と「非西欧」の深刻な対立があった。これはアメリカや西欧諸国の影響力が低下し、非西欧圏の勢力が拡大したことで顕在化したものである。マルクス研究の第一人者として知られる的場昭弘氏は、この対立が、世界戦争という破局を招きかねないと警鐘を鳴らしている。マルクスとは、それまでの経済学や哲学を批判し、「資本主義とは何か」を解明しようとした19世紀の思想家である。 『21世紀世界史講義 恐慌・パンデミック・戦争』は、的場氏が、19世紀の西欧に始まる「世界史」の構造を明らかにした三部作の完結編だ。同書から、ウクライナやガザだけでない“終末”の条件をみていこう。
終末時計は「残り90秒」
アメリカの雑誌『原子力科学者会報』が毎年の年頭に公表している「終末時計」というものがあります。世界の破滅・人類の絶滅を「午前0時」になぞらえ、それまでの残り時間を「0時まであと何分何 秒」と表示することで、世界中の人々に向けて警鐘を鳴らすというものです。 それによると、終末までの残り時間は2010年の「残り6分」以降どんどん減り続け、2023年、24年はともに「残り90秒」だそうで、終末時計が初めて発表された1947年以来、最短を記録してしまいました。もちろんこれは戦争による消滅だけでなく、ほかの自然環境破壊などを含めた人類終末までの残り時間を意味しています。 今世界は、刻々と世界戦争に近づいているのかもしれません。こう言うと驚かれるかもしれませんが、その理由は、一触即発で起こり得る条件があまりにも出そろってしまっているからです。
弱体化する西欧諸国
ウクライナ、ガザで戦争が展開しています。これはこの2世紀の間、世界を支配してきた西欧と、それに対する非西欧が対峙する戦争といってもいいものです。その意味で、この二つの戦争は結びついています。アメリカ一国による支配の崩壊が西欧の崩壊をもたらし、それが西欧に危機感を与えているから起こった戦争だともいえます。 しかも、西欧と非西欧という二つ の陣営の軍事力、経済力そして政治力が今では拮抗しているがために、この問題を力と力の勝負で決着しようとする可能性が高まっているともいえます。 小学生のころ、『世界大戦争』(松林宗恵監督、1961年)という映画を観たことがあります。 ちょうど1962年に米ソ対立が高まり、核戦争が起こって、やがて世界は破滅するのではないかといわれていた時代でした。幸いにもそれは起きませんでしたが。 俳優のフランキー堺扮する運転手の家族がこの映画の主人公ですが、「どこへ逃げてもしょうがない」と言うシーンは、とても印象的でした。世界が、そして人類が破滅するのですから、どこへ逃げても一緒です。 もちろん世界戦争が起こらないことを私は願っていますが、世界史を見れば、戦争はつまらぬ問題から起こっていることに気づきます。こうした戦争が起こる場合、不思議とそれを演じる役者である政治家と物的条件がそろっているものです。 アメリカ一国支配による西欧的価値観が崩れ、世界が多国間の支配になったことで、お互いの議論が噛み合わなくなっています。しかも、経済力・政治力・軍事力は西から東へと移っています。しかし、残念ながら西欧は、こうした移行を絶対に認めません。そうなると、それは軍事衝突を惹き起こします。