いつの間にか消えた「NTT法廃止論」、空転の裏側 政治に振り回された議論が浮き彫りにした難題
制度改正の議論が行われる表舞台となった総務省の有識者会議では、NTT法の規制緩和について、NTTの競合他社だけでなく、識者からも慎重な声が上がり、NTTは孤立していった。 政治情勢の急変により、議論のとりまとめに向けたスケジュールにも狂いが生じた。政府が翌年の通常国会に法案を提出する場合は、夏ころまでに有識者会議などで制度改正の方向性を定め、秋ころから法案策定に向けて内閣法制局と調整に入るのが一般的だ。今回の答申も当初は夏ころにまとめる予定で、有識者会議のスケジュールが組まれていた。
しかし同時期から、岸田文雄前首相の退陣表明、それに続く自民党総裁選、衆院解散総選挙と、政治情勢は激しく動いた。新たな体制が固まるまでに結論を出すのは困難だったとみられ、結果的に、答申案のとりまとめは年の瀬が迫った12月上旬にまでずれ込む事態になった。 NTT法廃止に強く反対してきた競合キャリアは、議論が尻すぼみになったことに喜びの色を隠さない。 「明るい表情で、明るい表情で」。反対派の急先鋒だったKDDIの髙橋誠社長は10月29日の総務省有識者会議に出席後、記者団の取材にこのように口火を切り、NTTの保有資産に対する規制強化が行われる見通しになっていることなどを評価した。
NTTが保有する光ファイバー網などを資本分離するよう提案してきたソフトバンクの宮川潤一社長は「この議論はあるべくしてあったから、恨みつらみはまったくない。日本の通信のために落ち着くところに落ち着いてきた」と話した。そのうえで、「自民党が最後どういう結論を出すか注視したい。大逆転があるとしたら、もう1度大声を出さないといけない時期がくるかもしれない」と、政治主導で有識者会議の結論が覆らないように牽制した。
■NTT側は「かなり満足している」 一方、劣勢を強いられたNTTの島田社長は同日、「NTT法ができて40年で初めてユニバーサルサービスが変わるのは、すごくエポックメイキングだ。ユニバーサルサービスの議論はかなり満足している」と強調した。 NTTは、固定電話縮小への対応を喫緊の経営課題に位置づける。固定電話をユニバーサルサービス制度に基づき不採算地域を含めて提供し続けるのにはコストがかかり、国が一部費用を支援しているものの、それでも発生する多額の赤字をNTT側が負担している実態があった。制度改正が実現すれば、大幅な赤字縮小が期待できるという。