いつの間にか消えた「NTT法廃止論」、空転の裏側 政治に振り回された議論が浮き彫りにした難題
もっとも、最終答申案を細かく読み解くと、NTTに対する規制の現状維持、さらには規制強化を求める内容も目立つ。顕著なのは、NTTと他事業者間で公正競争環境を確保するための制度の見直しだ。 NTTは電電公社時代から引き継いだものを中心に、他の通信事業者が持ちえない大規模な通信インフラを保有する。局舎、電柱、管路、とう道といった「線路敷設基盤」や、光ファイバー網などの「アクセス回線」だ。 とりわけ光ファイバー網は他事業者のビジネスにとっても不可欠な設備で、KDDIを筆頭とする競合他社は、こうした「特別な資産」の取り扱いをめぐる規制緩和に強く反対してきた。答申案では意見を反映する形で、NTTが線路敷設基盤を譲渡や処分する際には認可を必要とするよう、制度を見直す内容が盛り込まれている。
規制緩和による統合論が浮上していたNTT東日本、NTT西日本についても、分離の維持が適当であるとの結論が示された。さらに答申案は、公正競争に影響を及ぼす可能性が高いグループ会社の合併や再編について審査の対象にするよう求めた。 NTTは2020年にNTTドコモを完全子会社化し、当時競合からは「独占回帰だ」などと反発の声が上がっていた。こうしたNTTグループの市場支配力の強大化を懸念する声を踏まえた格好になる。
■政府の株式保有義務は「維持」 そもそもNTT法見直しの議論は、増大する国の防衛財源を確保する観点から、政府によるNTT株保有義務の見直し案が浮上したことをきっかけに始まった。ところが答申案には、その政府の株式保有義務について「維持が適当」とあっさり明記された。 注目を集めた制度改正の法形式については、「総務省で検討することが適当」として、結論を明示していない。ただ、NTTに対する規制の現状維持、強化の内容が目立つことからもわかるように、法廃止のような抜本見直しに至る内容でないのは明らかだ。NTTの島田明社長も10月29日の有識者会議に出席後、「今の段階では廃止は無理だろう」と認めている。