Ken Yokoyamaが語る、90年代パンクの原風景「ライフスタイルの変化が鍵だった」
当事者として体感した90’sムーブメント
―当時、初期パンクからの流れなんかを知らずに聴いてた自分のような人間としては、90年代って新しく台頭してくるバンド、次々とリリースされるアルバムがことごとくカッコよくて、それを当たり前のように享受していたんですけど、オリジナリティ溢れるカッコいいバンドや名曲があそこまでたくさん同時発生的に生まれたのはなんでだと思いますか。 なんでだろうね。このムーブメントは本当に全世界的だったからね。俺らが91年にHi-STANDARDをはじめたときはバッド・レリジョンのこともNOFXのことも知らなくてさ、知ってたのはスナッフだけ。そんな中、誰から教わったわけでもなく、ほかのバンドと似たような音を出してたわけじゃない? それはもう、説明つかないよね。そういう時期だったんだって言うしかない。さっき、初期パンクとはライフスタイルが違うって話をしたじゃない? でも、俺たちはパンクマインドは持った上で、スラッシュメタルもポップなメタルもスカもラテンもブルースも何もかも詰め込んで、それを速いビートでコーティングしたのが90’sパンクだと思うのよ。そういうアイデアを持った奴らが世界中に散らばってたってことは必然だったと思うんだよね。さっき話したように、オリジナルパンクの人たちには技術はないし、作曲能力もそんなに高くない。そこで、パンクマインドを引き継いだ「俺だったらこういうサウンドを出すよ」っていう子どもたちが、80年代後半から90年代にかけて世界中にいたっていうことだと思うんだよね。 ―70年代からの流れがあったからこそ。 そうそう。90’sパンクの人間は初期パンクやハードコアの人たちからは否定されるけど、俺たちは初期パンクもハードコアも好きだったからね。ただ、彼らの出したサウンドに感銘を受けてはいたけど、同じことをやってもなっていうことは感じてたんだよ。 ―カウンターを打ちたかったわけではないと。 そう、敢えて逆張りではなかった。自分がやるならこうだよなっていうものを自然と出したんだよ。俺が好きなものはパンクロックだけじゃないしなって。話は飛んじゃうけど、俺、実はそれと同じことをのちにもう一度体験してるんだよね。 ―それはいつですか? 2000年代に入ってから、俺も含めてみんながアコースティックに走ったんだよ。ラグワゴンのジョーイとかさ、 ノーユース(・フォー・ア・ネーム)のトニーとか、スナッフのダンカンとか。これで人数がもっと多くなって音源の数も増えたらひとつのムーブメントになるよなって思ってたの。 ―それはエモからの影響もあるんですかね。ダッシュボード・コンフェッショナルとか。 ああ、なくはないね。ニュー・アムステルダムズとか。で、パンクマインドをもってアコースティックを鳴らせるってことに俺ら世代は気づいて、同時期にみんなそっちに走っていったわけ。あれは興味深かったよ。 ―話を戻します。俺は90年代にアメリカに住んでたんですけど、思い返してみると、当時はMTVの力も大きかったのかなと。人気のあるパンクバンドが新曲を出せばすぐにBUZZ CLIP(ヘヴィ・ローテーション)になってましたから。 その流れを作ったのはオフスプリングだよね。だから、(オフスプリングが所属していたレーベル)エピタフの力がデカいんだよ。これは音楽史の話になっちゃうけど、その伏線として考えられるのはニルヴァーナとガンズ・アンド・ローゼスなんだよね。ガンズがMTVですごくヒットして、「第2のガンズを探せ!」つって白羽の矢が立ったのがニルヴァーナだったんだよ。 ―そうだったんですね。 で、その恩恵を受けたことで、オフスプリングも世に出やすかったんだと思う。もちろん、細かく言うと全然同じタイプの音楽ではないけどさ、普通の人からしたら「次の激しい音楽」だったわけで。 ―この作品をきっかけに、 今のおじさんおばさんにも胸を張って当時のパンクの話をしてもらいたいですね。 そうだね。これをつくってるときはわかんなかったけど、ひとつのパッケージになったことでそういう発見はあったかな。「こういうのが好きだったんだよ!」って胸を張ってもらえるっていうか……張れないかもしれないけど。 ―いや、張れますよ。 本当? だって今さ、メロディックパンクとか笑いものなんじゃないの? ―こう言っちゃアレですけど、もはや笑われる対象にもなってないんじゃないですか? 確かに! 知ってすらいないのか。じゃあ、胸張ってもらおうか(笑)。 ―昔話をすると若い人たちから煙たがられがちですけど、そんなの関係なく。 なんで今の人たちって昔の人たちのそういう話を聞かないんだろう。 ―どうしてですかね。語ってる人の態度に問題があるのかもしれない、わかんないですけど。 確かに、俺が若いときから昔話するおっちゃんは煙たかったからな。でも、こういう音楽があったんだよっていうことを後世に伝えていくためには、おじさん、おばさんが若い子にどう話すかっていうのが大事な気がする。昔と今では言葉の伝え方も違うしさ、世代によって感受性も違うわけで。俺はこういう音楽を知ってもらいたいと思ってつくったんだけどさ、どうやったら若い子らに知ってもらえるんだろう……無理なのかな?(笑)。 ―いや、でも、横山さんがMステに出たのを見たところからサバシスター結成へとつながったように、この作品をキャッチする若いリスナーがゼロなわけではないと思いますよ。 まあね。そりゃそうだ。これから音楽を鳴らそうっていう若い子たちの感覚に触れてくれればいいんだな、どういう形であれ。 ―自分たちの曲がカバーされる側になったとしたらどうですか。素直に受け止められます? それはわかんないな……わかんないわ。どこを軸にしてどう捉えられるかによるかな。たとえば、今回のアルバムはすごく時代性を重視しるし、パンクに限定しているつもりなんだけどさ、自分がカバーされるとして、自分が思ってるのと違うくくりに入れられたら違和感あるかもね。でも、つくる人の主観があるからそれは全然しょうがないんだけどさ……いや、でも、どう思うかわかんないな。昔からそうなんだけど、自分が人を好きになったり、その人の行為が眩しく見えたりするのはいいんだけど、逆に自分がその立場になるとちょっと理解が追いつかないというか…… わかんないんだよね。 ―そこに対して客観的になるにはもう少し時間がかかるかもしれないですね。 でも、この秋で55だぜ?(笑)。まあ、言ってみりゃ、自分が(甲本)ヒロトさんとかマーシーさんのことが好きで追っかけるのはいいんだけどさ、自分がされたらやだなっていう感じだな。