「近所のお店の人たち、みんな患者さんですよ」東京・新大久保、「多国籍な」街の歯科医
クリニックの開業は2004年だ。そのころは韓国の店が多かったが、年々、多国籍化が進む。恵美子さんは言う。 「インドやムスリム、東南アジアなどいろんな国の人が増えましたよね。古くから住んでいる人たちが、新しい住民も受け入れてくれる街だと思います」 クリニックがあるのは駅のすぐ西側、大久保通りを南に入った路地で、周辺はアジアのさまざまな民族や文化が入り混じる。タイ料理店の並びにネパール料理店と韓国料理店があり、ハラル食材店の軒先でバングラデシュの人々が世間話をしている。サリー姿のおばちゃんや、東南アジアや中国の留学生も行き来する。この2月には新しくインド食材の店もオープンした。 「近所のお店の人たち、みんな患者さんですよ」 鴻一さんは笑う。
「この街で店を開いた十何年前から、歯医者さんはずっとここ」 そう語るのは、クリニックのすぐそばにあるタイ料理店「ソムオー」の料理長、カセムシット・ケムティーシンナシーさん。 「先生も奥さんも優しいし、ていねいに治療してくれるからね」 近所に住む外国人にはよく知られた存在なのだという。かと思えば、地域で発行しているネパール語新聞が、広告営業にやってきたりもする。
我が子のように、留学生たちを見守る
留学生の患者も多い。新大久保は日本語学校や、外国人を受け入れる専門学校も多い。異国で歯の痛みを抱えた彼らは、看板を見て、あるいは友人に教えられてクリニックを訪れる。そして「かかりつけ」になり、クリーニングなどで定期的に顔を見せるようになるのだ。だから留学生たちの成長を、すぐそばで見ることができるのだと恵美子さんは言う。 「はじめは日本に来たばかりで言葉もあまりわからなかったのに、どんどん日本語がうまくなっていくの。語学学校を卒業したよ、日本人の恋人ができたんだ、どこそこの大学に入ったよ、なんて治療に来るたびに話してくれて。なんだか自分の子供の変化を見ているよう」
コロナ禍のいま、就職活動に奔走している留学生も来るそうだ。 「留学するときに親から出された条件は、卒業したらちゃんと帰国すること。でも日本が気に入って、ずっと住みたくなったから就職するんだって。まず仕事を決めて、親を説得するんだってがんばってる」 受付や通訳などのアシスタントとして働いているのも、留学生だ。郭雅恵さん(21)は中国・遼寧省出身の大学2年生。 「新大久保はいろんな人がいるから楽しいですよ。でもアルバイトばかりじゃなくて大学にも行きたい。コロナでほとんどオンライン授業なんです」 と、ちょっと寂しそうだ。