定年世代が困惑する「多様性の時代」の受け入れ方、「高度経済成長期」は迷うほど選択肢がなかった
■楽しみは「大谷選手のホームラン」だけ 70代のある男性は、「大谷選手のホームランくらいしか楽しみがない」とこぼします。とっくに子育ては終わったものの、我が子は晩婚化の流れの中で未だに結婚をしておらず、もちろん孫はなし。家族との会話もめっきり減って、本音を話せる相手もいないことに気づきます。あんなに嫌だった対面での接客商売が「案外、やりがいだったのかもしれない」と振り返ることもあるそうです。 もちろん、それまで蓄えた資産をもとに悠々自適に暮らしている人たちや、定年を機に新たな楽しみを見つけた人もいますが、特に趣味などもなく、時間を持て余している人も多いといいます。
だからこそ今必要なのは、キャリアを人生そのものと捉えて、人生の解像度を少しでも高めることです。そのときの環境に応じて、小さな目標でもかまいません。それが自分にとって意味あるものだと思えることが、何より重要です。 そして、そこに向かうプロセスで得られる幸福感=「心理的成功」の感覚を、身に付けていきましょう。それが、他の誰かに与えてもらう幸福ではなく、自分で自分を幸せにしていくことにつながるのです。
先に紹介した長谷川さんも、自分が「終わった人」になるかもしれないと危機感を抱いたときには、特にやりたいことも、やるべきこともありませんでした。しかし、「定年本」を読み漁る中でキャリアコンサルタントという存在を知り、自分も資格を取ろうと決め、そこから勉強仲間と知り合い、私とも出会うことになりました。長谷川さんはこう振り返っています。 「戦略的に人脈を作ってきたわけではありません。でも、出会った人たちとの関わりの中で思いもよらない学びがあったり、新しいコミュニティに参加する機会があったり、自分も成長している気がします。まだ他人のキャリアにどれほど影響を与えられているかはわかりませんが、少しずつ支援できている実感はあります」
有山 徹 :一般社団法人プロティアン・キャリア協会代表理事